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私が見たアメリカのホテル

アメリカの一流ホテルで日本人マネージャーとして10年間勤務した著者が、日々の仕事の中でふと目にしたシーンから、日米の文化的な違い、考え方の背景にあるものなどをつづります。 著者紹介はこちら>>

第192回

活気づくニューヨークのホテル売買

ホテルイメージ

ニューヨークで、ホテル売買が活気づいてきた。コロナで閉鎖されたホテルを投資家が安値で購入してから早2年。コロナ収束後、ホテル数はもとには戻らないが、宿泊客数は増加している。そのため、ホテルの業績はとてもよく、早くも高値で売れる時期が来た。売買が動き出した背景にはこうした理由がある。

リモートワークの定着により、多くのエグゼクティブは郊外に暮らしながら仕事を行い、マンハッタンのオフィスに来るのは週に1度などというスケジュールで働いている。こうした流れはもとには戻らず、マンハッタンのオフィスの占有率は急落。今、不動産開発業社が力を入れているのは、オフィスビルをどのようにしてホテルやコンドミニアム(分譲マンション)やレンタルアパートメントビルに改築するかという技術の開発。

なかでも、インターネットの普及によりレベニューマネージメントが導入されてから、ホテルの収益率はとても良く、年間収益の上昇率はレンタルアパートメントのそれよりも遥かに高い。当然のことながら、投機家や投資家にとって、ホテルが一番のターゲットになっている。コロナ禍で閉まったホテルを買収した投機家は短期間で収益を出すことに成功した。だが、だからと言って、「出遅れた」などという考えはない。マンハッタンに泊まりに来る人々はこれからも増加の一途をたどることは自明の理。ホテルの需要もつられて高くなり、収益があがり続けることは分かっているからだ。

ただ、現在は、個人や少人数のグループで結成された組織が活発に動いているため、売買価格は30ミリオンドル(1ドル150円計算で45億円)から150ミリオンドル程度と中小規模のホテルの取引が主流になっている。200ミリオンドル以上の大型ホテルの多くは依然として、ドアは閉ざされたままの状態にある。

2018年と2019年は、日本の大手ホテル会社がのきなみニューヨークにホテルを探しにきた年だった。だが、購入に踏み切ったのは1社のみ。理由として、日本人が求める「ミッドタウンにある比較的新しくて労働組合に入っていないホテル。それも150ミリオンドル以下」などという物件は存在しないことが挙げられる。だが、ニューヨークのホテルビジネスの成否に、そうした日本的指向は必要ない。中国はウォルドルフ=アストリア、韓国はニューヨークパレス、インドはピエールと、それぞれニューヨークを代表する豪華ホテルのオーナー兼運営者になっている。シンガポールは4スタークラスのホテルを3軒保有し、そのうち1軒を運営している。この機に、今度こそ、豪華ホテルの保有運営を行える日本企業がでてくることを期待したい。

2023.11.30公開

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奥谷啓介氏

著者:奥谷 啓介

1960年東京都生まれ。ウエステインスタンフォード&プラザシンガポール、ハイアットリージェンシーサイパン等勤務の後、1994年よりニューヨークのプラザホテルに就職。2005年プラザホテルの閉館に伴い退職。現在はニューヨークにてホテルコンサルタントを、また2023年6月からは長年の夢であった小説家としてデビュー。ホテルマンの経験を活かし多方面で活躍中。

・奥谷 啓介オフィシャルサイト

<著者紹介>

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