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私が見たアメリカのホテル

アメリカの一流ホテルで日本人マネージャーとして10年間勤務した著者が、日々の仕事の中でふと目にしたシーンから、日米の文化的な違い、考え方の背景にあるものなどをつづります。 著者紹介はこちら>>

第172回

大手ファイブスターブランドホテルの現状

ホテルイメージ

昨今、ニューヨークに建てられるファイブスターブランドホテルはほとんどと言っていいほど、コンドミニアム(分譲マンション)とビルを共有するスタイルで建てられている。ファイブスターホテルの上にあり、ホテルのサービスも受けられるとなれば、通常のコンドミニアムよりも遥かに高い値段で売れる。ビルのオーナーは、最初にコンドミニアムを売って利益を得て、その後は、ホテルのオーナーとして、ホテルが生み出す収益を受けられるという、二つの楽しみを得ることになる。1990年代後半、アメリカに於いて、十分な利益を出せないファイブスターブランドを支持するオーナーが激減した。その際に、存続をかけて考えだされたのがこのスタイルだった。

コンドミニアムはファイブスターカテゴリーにあわせ、ジム、プール、サウナなどが常設されているのは当然のこと、装飾も贅を尽くした最高級の仕上がりになっている。もちろん、こうした構造になるのはファイブスターブランドのみ。フォースターブランドの上にあり、そのサービスが受けられるというセールスポイントでは、コンドミニアムは高い値段では売れないからだ。

ホテルのゲストにとって残念なのは、部屋の内装は素晴らしいが、眺めの良い部屋はまずないということ。上層階と綺麗な眺めに面した部分は全てコンドミニアムに取られてしまうからだ。4~5年前、セントラルパークまで1ブロックの場所に、ファイブスターブランドのホテルがオープンした。300メートルを超える超高層ビルなので、期待して見に行ったのだが、上層階とセントラルパーク側は全てコンドミニアムに取られてしまい、ホテルは下層階のシティービューのみだった。どこもこうした構造になると、ファイブスターブランドの信頼度が下がってしまう。

一方、コロンバスサークルの前に立つマンダリンオリエンタルホテルは、高層ビルの上層部が全てホテルにあてがわれていて、どの部屋からもセントラルパークかハドソンリバーの絶景を楽しめる。オフィスビルとの共存になったことで、これが可能になった。オフィススペースは売るわけではないし、高いレンタルフィーを取ろうと、最高の眺めを確保する必要もない。それよりも、ホテルに絶景を与え、高いルームレートを取れるようにしたほうが大きな利益につながる。

現在、ニューヨークでは、独立経営で個性の強いブティックライフスタイルホテルが人気を博している。大手ファイブスターブランドは新しいビジネスモデルを考えないと、アメリカに於いては、いつまで人気をキープできるか分からない。

2022.3.16公開

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奥谷啓介氏

著者:奥谷 啓介

1960年東京都生まれ。ウエステインスタンフォード&プラザシンガポール、ハイアットリージェンシーサイパン等勤務の後、1994年よりニューヨークのプラザホテルに就職。2005年プラザホテルの閉館に伴い退職。現在はニューヨークにてホテルコンサルタントを、また2023年6月からは長年の夢であった小説家としてデビュー。ホテルマンの経験を活かし多方面で活躍中。

・奥谷 啓介オフィシャルサイト

<著者紹介>

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