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私が見たアメリカのホテル

アメリカの一流ホテルで日本人マネージャーとして10年間勤務した著者が、日々の仕事の中でふと目にしたシーンから、日米の文化的な違い、考え方の背景にあるものなどをつづります。 著者紹介はこちら>>

第179回

ホテルの格とサービスが比例する理由

ホテルイメージ

アメリカのホテルでは、トラブルが発生したときの対応が、ホテルのカテゴリーによってあからさまに違う。私が働いていた1990年代は、マネージャーはビーパーを携帯し、呼び出される都度、電話で対応を行っていたため時間がかかり、ゲストのフラストレーションを煽ったものだった。20有余年が過ぎ、現在、多くのマネージャーがスマートフォンを携帯しながら仕事を行っている。

先週、複数のVIPと共にニューヨークの一流ホテルに泊まっていたとき、ゲストリレーションマネージャーと会ったら、「お役に立てることがあれば、いつでもテキストメッセージか電話をください」と言って、スマートフォンの電話番号をくれた。問題が発生したとき、すぐに迅速な対応が得られ、とても助かった。

だが、これは一流ホテルだから可能だったことであり、二流ホテルではそうはいかない。スマートフォンの電話番号を教えようものなら、どのような無理難題を言われるかわからないという恐れからだろう、よほどの大事でない限り、或いは、責任感が強くサービス精神の旺盛なスタッフに当たらない限り、教えてはもらえない。

また、マネージャーのスマートフォン番号を持っていなくても、一流ホテルなら、オペレーター経由で対応がとれる。まず、フロントオフィスにつないでもらいEメールアドレスを取る。そして、フロントオフィス宛てのEメールを使って事情を説明すれば、たとえ夜遅くてもフロントオフィスマネージャーは対応する。こちらの電話番号を入れておけば、対応方法を考えて電話を返してくる。

だが、これも一流ホテルだから可能なことであり、二流ホテルであれば、「もう対応できるスタッフがいないので、明日、ご連絡させていただきます」という案内となることがほとんどだ。さらに、引継ぎがされず、翌日になってもなんの対応もされないというパターンが多い。運営方針もさることながら、一流ホテルで働くマネージャーの資質と自覚がサービスに大きな差を作り出す。

また、二流ホテルにいたときは、さえなかったスタッフが、一流ホテルに入ったら、周囲を見習い自覚を持ち、資質まで磨かれるという例は多くみられる。スタッフがホテルを支えるのではなく、ホテルがスタッフを磨くと言う逆の現象が起きている。朱に交われば赤くなるわけだが、一度磨かれたスタッフは二流ホテルに戻っても、光を失わない。一流ホテルで得た知識と経験を使ってサービスの向上を図ることができる。

ただ、その差を知ってしまった人材は、二流の場所には戻りたいと思わないため、多くは一流ホテルの中で働き続ける。そして、一流ホテルは一流ホテルで働いる人材ばかりを採用するため、ホテルのサービスの差は益々開いていくことになる。

2022.10.27公開

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奥谷啓介氏

著者:奥谷 啓介

1960年東京都生まれ。ウエステインスタンフォード&プラザシンガポール、ハイアットリージェンシーサイパン等勤務の後、1994年よりニューヨークのプラザホテルに就職。2005年プラザホテルの閉館に伴い退職。現在はニューヨークにてホテルコンサルタントを、また2023年6月からは長年の夢であった小説家としてデビュー。ホテルマンの経験を活かし多方面で活躍中。

・奥谷 啓介オフィシャルサイト

<著者紹介>

・超一流の働き方

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