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私が見たアメリカのホテル

アメリカの一流ホテルで日本人マネージャーとして10年間勤務した著者が、日々の仕事の中でふと目にしたシーンから、日米の文化的な違い、考え方の背景にあるものなどをつづります。 著者紹介はこちら>>

第40回

主流になりつつあるコンドミニアム兼ホテル

ホテルイメージ

The Setai, Miami Beach

5番街の36ストリートに最近オープンした「The Setai Fifth Avenue」というホテル兼コンドミニアムに、プラザ時代の同僚が働いている。彼に誘われて視察をすることに。エンパイアステートビルからわずか1ブロックを隔てたところに建てられた、300メートル級の超高層ビルだ。この90階あたりに自分の部屋を持つことができたらどんなに楽しいことかと夢を見た。同時に、1989年から自分が働いていた、当時世界で一番背の高いホテルだったシンガポールのウェスティン スタンフォード(現在はスイソテル ザ スタンフォード)を懐かしく思い出した。

近頃のアメリカのホテルの流行りは、ビルの中にコンドミニアムを保有し、そこの住人でもホテルのサービスを受けられるようにしている造りだ。一昔前は、オフィスビルの上層部がホテルという造りが流行ったが、最近はそれがコンドミニアムに変った。コンドミニアムのユニットを販売することで、ビルのオーナーは建築にかかる多くの費用をすぐに返済することができる。また、ホテルのサービスがつくことで、通常のコンドミニアムよりも高い値段で販売することが可能になる。ホテル側の利益としては、レストラン利用客にコンドミニアムの住人を期待することができ、ベルマン・ドアマンのチップも住人から入るようになる。さらに、割高な管理費が安定収入となる。これはビルのオーナーにとっても、ホテル運営にとっても共に利益となる構造なのだ。

ホテルファンとして面白くないのは、ホテル部分がコンドミニアムよりも悪いところにあるということ。例えば、ホテルが上層階にあり、コンドミニアムが下層階にあるということはない。ホテルゲストはせいぜい1週間の滞在がいいところ。一方、住人は暮らすわけだから、最高の条件を備えたユニットを造り高い値段で売れるようにしなければならない。プラザホテルが改装されたときも、セントラルパーク側と5番街側は全てコンドミニアムに割かれてしまった。

東京にもこうしたタイプのホテルが建てられる可能性がある。だが、そのためには、世界の富裕層から、“ここにコンドミニアムが欲しい”と思われる街にならなければならない。異常に高い管理費を考えると、お金を無駄にするのが気になる人では購入には無理がある。因みに、プラザホテルの2ベットルームのコンドミニアムの管理費は毎月50万円程度する。その多くは世界中の富裕層に持たれていて、彼らが年に数回訪れたときにしか使われないというのが現状だ。こうしたコンドミニアムは日本人をターゲットにして成り立つビジネスではないのだ。

「The Setai Fifth Avenue」の客室を見ていて、ウェスティン スタンフォードの最上階のスイートを思い出していた。ブルネイの王様が年間を通して予約し、泊まらない日も毎日、シンガポールドルで3,000ドルを払っていた。「世界には、日本では想像のつかないお金もちがたくさんいる。」そんなことを学んだ時代だった。

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奥谷啓介氏

著者:奥谷 啓介

1960年東京都生まれ。ウエステインスタンフォード&プラザシンガポール、ハイアットリージェンシーサイパン等勤務の後、1994年よりニューヨークのプラザホテルに就職。2005年プラザホテルの閉館に伴い退職。現在はニューヨークにてホテルコンサルタントを、また2023年6月からは長年の夢であった小説家としてデビュー。ホテルマンの経験を活かし多方面で活躍中。

・奥谷 啓介オフィシャルサイト

<著者紹介>

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なぜ「お客様は神様です」では一流と呼ばれないのか

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