アメリカの一流ホテルで日本人マネージャーとして10年間勤務した著者が、日々の仕事の中でふと目にしたシーンから、日米の文化的な違い、考え方の背景にあるものなどをつづります。 著者紹介はこちら>>
時代によるホテルの変遷
まだ携帯電話がなかった時代、電話代はホテルにとって大きな収入源だった。通常料金の3倍から5倍すると分かっていても、外にでて公衆電話を探す気にはなれず、人々は部屋の電話を利用した。だが、時代は変わり、誰しもが携帯電話(スマートフォン)を持つようになった。大きな収入源が失われたことで、テレフォンオペレーターを雇う経費を削減。ほとんどのホテルでテープによる音声案内を利用。いや、案内どころか、外線を部屋につなぐという操作さえなくしてしまったホテルもある。もはやホテルに連絡をすれば、部屋にいる人と話しができるという考えは捨てたほうがいい。でないと、緊急時に連絡がとれず、困り果てることになるかもしれない。
この20年で、キャリーオンバックを利用するゲストが増加。バゲージが他の空港に行ってしまうなんてことは日常茶飯事だし、ターンテーブルでバゲージを待つ時間がもったいないと考える人もいる。バゲージメーカーは機内持ち込みができるぎりぎりの大きさで、より多くの荷物を収容できるバッグを改良してきた。これにより、ベルマンの仕事が激減し、その数も減った。
マンハッタンでは予約が取れないレストランが多くある一方、倒産していくレストランもあとを絶たない。おいしい料理とハイレベルのサービスが提供できれば、人口密度が低くても予約は取れなくなる。だが、どんなに多くの人がいようとも、まずいレストランにわざわざ行く人はおらず、人口密度が高ければ成功できるという考えは甘すぎる。マンハッタンにある多くのホテルはさっさとレストラン運営を諦め、夜はクローズするところばかりになった。
残念ながら、文化の中心などと言われてきたホテルの役割は衰え、多くのホテルがベッドと朝食のみを提供する場へと変貌を遂げた。こうなれば、客室から得られる収益に絞り、最低限のスタッフ数で運営を行い、高い収益をだすこと。それが、投資家がビジネスを支配するアメリカ社会の必然の成り行きと言える。
ただ、わずかではあるが、こうした流れに逆らう動きができるホテルも無くはない。最近、マンハッタンにできたアマンリゾートなどを見ると、泊まりにくる大部分の人はホテルステイを楽しむための観光客。ホテル内で用意された最高級レストランとリクリエーション施設を使い、空いた時間を利用してマンハッタンを楽しんでいる。この他のホテルとは真逆の過ごし方が当たり前になっている。これに続く同タイプのホテルチェーンがでてくるのか、それとも、一時的な流行りで廃れていくのか、ホテルで働く者なら、誰でもが知りたいホテルの未来と言える。
2024.04.30公開
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著者:奥谷 啓介
1960年東京都生まれ。ウエステインスタンフォード&プラザシンガポール、ハイアットリージェンシーサイパン等勤務の後、1994年よりニューヨークのプラザホテルに就職。2005年プラザホテルの閉館に伴い退職。現在はニューヨークにてホテルコンサルタントを、また2023年6月からは長年の夢であった小説家としてデビュー。ホテルマンの経験を活かし多方面で活躍中。
<著者紹介>
ビートルズ・ケネディ大統領・サウジの大富豪……全世界のVIPらに愛され、マネージャーとして超一流の世界で学んだ世界標準の「サービス」「心の持ち方」「自分の活かし方」「生き方」を公開!
「アメリカのホテルで1万円儲かることが、日本のホテルでは3,780円しか儲からない」といわれるほど世界最低レベルの生産性。働けど働けど儲からないワーキングスタイルに苦しめられるのはもうやめよう。
・はえくんの冒険(原作:アントニオ猪木、著:ケニー奥谷、絵:八雲)
ブラジルの中央、マッドグロッソにある牧場に生まれた「はえくん」の物語。原作のアントニオ猪木氏が自身の体験をもとに長年あたためてきた企画が、奥谷氏の手により絵本になりました。大人が読んでも楽しめる愛と友情の物語です。
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