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私が見たアメリカのホテル

アメリカの一流ホテルで日本人マネージャーとして10年間勤務した著者が、日々の仕事の中でふと目にしたシーンから、日米の文化的な違い、考え方の背景にあるものなどをつづります。 著者紹介はこちら>>

第187回

日米間のホテル給与の差を作り出すもの

ホテルイメージ

昔から、アメリカのホテルの給与は日本のそれよりもかなり高い。それを可能にしている最大の要素はチップ制度。チップドワーカーと呼ばれるウエイター、ウエイトレス、ドアマン、ベルマン、バンケットスタッフ(宴会係り)などは、チップという収入があるため、給与を低く抑えることができ、その分、チップを得られないスタッフの給与を高くすることができる。

次の要素は少数精鋭部隊を揃えていること。チップドワーカー以外の多くはマネージャー。マネージャーには平社員であるアシスタントが付く。だが、5人~10人にひとり人程度なので、多くのマネージャーは秘書に頼らず、自分だけで仕事をこなす。従って、平社員がとても少なく、日本で見られるような平社員が顔を見合わせて働くオフィスの光景はアメリカでは見られない。

マネージャーは管理職なので、どんなに長く働こうが残業代はつかない。だが、仕事を与えられるわけではないので、時間に追われることがない。彼らは与えられたゴールに向かって自分自身で戦略を立てて進むため、期限を自分で操作できる。その分、ゴールに到達できないときは、レイオフ(解雇)される危険を背負うが、ミーティングに時間を取られることが少なく、他者の意見を聞くこともあまりない。こうした働き方が効率を上げ、給与を高くすることに貢献している。

日本のホテルにはチップ制度がないが、サービスチャージを取っている。それは経常利益となってしまうが、給与に還元できるものなので、全体的に給与を上げる働きをしている。結局、日米の給与差を生み出している最大のものは働く効率の差ということになる。

多くの残業は期限付きの仕事を与えらえることで、できあがる。また、効率が悪い会社は給与が低くいので、それを残業代で補うなどという悪循環をつくりあげる。一方、ゴールを与え、自分のやり方で到達させるというアメリカのスタイルは、ミーティングの時間も他人の意見の邪魔も省き、高い効率を生み出す。また、ゴールに到達できない場合は責任を取らされるので、自分の力量を判断し、できない仕事にはつかないようになる。さらに、志の強い者は力量をあげる努力を自発的に行うようになり、短時間で能力を伸ばすという好ましい状況を作り出す。このスタイルの欠点があるとしたら、能力のある者とない者との間に、給与の大きな差を作りだしてしまうということ。それはとりもなおさず、アメリカは貧富の差が大きく、日本は小さいという、社会構造の差となって表れている。

2023.6.30公開

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奥谷啓介氏

著者:奥谷 啓介

1960年東京都生まれ。ウエステインスタンフォード&プラザシンガポール、ハイアットリージェンシーサイパン等勤務の後、1994年よりニューヨークのプラザホテルに就職。2005年プラザホテルの閉館に伴い退職。現在はニューヨークにてホテルコンサルタントを、また2023年6月からは長年の夢であった小説家としてデビュー。ホテルマンの経験を活かし多方面で活躍中。

・奥谷 啓介オフィシャルサイト

<著者紹介>

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