アメリカン・エキスプレス
私が見たアメリカのホテル

アメリカの一流ホテルで日本人マネージャーとして10年間勤務した著者が、日々の仕事の中でふと目にしたシーンから、日米の文化的な違い、考え方の背景にあるものなどをつづります。 著者紹介はこちら>>

第165回

デルタ株がホテルに及ぼす影響

ホテルイメージ

8月に入り、ニューヨークの観光事情は大きく変わった。その変化をもたらしたものはデルタ株の猛威。1回目のワクチン接種率が50%を超えた5月上旬に感染者数は激減。6月15日に、ワクチン接種を2回終えた者には屋内でのマスク着用義務が廃止され、レストランの人数制限も解かれた。これで日常が戻ってくると喜んだのも束の間。デルタ株の出現により状況は一転。ニューヨーク市は、レストラン、劇場、スポーツジム、イベント会場など屋内施設での「ワクチン接種証明書の提示の義務化」に踏み切った。9月13日以後、ワクチン接種を少なくても1回は受けているという証明書を見せないと、室内施設には入れない。事情があって、ワクチン接種を受けられない人は、PCR検査の陰性証明を見せることが必要とされる。

ただ、ホテルに関して、これをどのように導入するかは、今のところ決まっていない。ブティックホテルの先駆者として知られるイアン・シュレガー氏は「私が所有するホテル、パブリックでは、スタッフもゲストもワクチンを受けていないものは入れない」と、早々と声明を出した。彼の方針に他のホテルが続くのか、或いは、ニューヨーク市または州が、ホテルに関して方針をつくるのか、様子見となっている。

一方、「ワクチン証明書を見逃したという責任を負わされたくないので、この方針はホテルには導入しないでもらいたい」というホテルオーナーもでている。レストランでは、証明を見逃したとき、その責任を問われることになる。同じことがホテルにも適応されれば、エントランスの前に専用の係を置いて、24時間体制で検査を行うことになる。それはたいへんな負担となる。

それでも、今回の状況にホテルは悲観的になってはいない。既にワクチン接種証明書を持っている人が人口の6割以上いる。政府の方針として、この人達に行動制限をかけることはないので、ビジネスは回る。もとよりレストランもホテルもクローズしたままのところが多く、ワクチン接種を受けた人口だけでも利益を保てるという公算が立つからだ。

これから冬にかけ、海外から来る人々のワクチン証明書をどのようにするのかという課題が生じるだろう。日本で接種されているワクチンはアメリカで使われているものだから、日本で利用するワクチンパスポートも、アメリカでも通用するものにできるはず。日米政府間での話し合いに期待したい。

2021.8.18公開

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奥谷啓介氏

著者:奥谷 啓介

1960年東京都生まれ。ウエステインスタンフォード&プラザシンガポール、ハイアットリージェンシーサイパン等勤務の後、1994年よりニューヨークのプラザホテルに就職。2005年プラザホテルの閉館に伴い退職。現在はニューヨークにてホテルコンサルタントを、また2023年6月からは長年の夢であった小説家としてデビュー。ホテルマンの経験を活かし多方面で活躍中。

・奥谷 啓介オフィシャルサイト

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