アメリカン・エキスプレス
海外ホテルトップ > ホテルの賢い使い方 > 私が見たアメリカのホテル > ホテルを動かすリーダーシップとマニュアル
私が見たアメリカのホテル

アメリカの一流ホテルで日本人マネージャーとして10年間勤務した著者が、日々の仕事の中でふと目にしたシーンから、日米の文化的な違い、考え方の背景にあるものなどをつづります。 著者紹介はこちら>>

第185回

ホテルを動かすリーダーシップとマニュアル

ホテルイメージ

トップダウン制と言われるように、一握りのリーダーが多勢を引っ張っていくのがアメリカのビジネス社会。ホテルでもそれは顕著に現れている。リーダー格になれる人材を除いては、仕事より自分の都合を優先させる多勢。トラブルが発生すれば、ゲストからのプレッシャーを受けながら、マネージャーは解決に向けて動く。担当者からは「今、解決に向けて動いています」などという返事が戻ってくるが、2時間たっても次の返事が戻ってこない。連絡をしてみたら、勤務時刻が過ぎたので、担当者は帰ってしまっていたなどというのが当たり前。ゲストをさらに怒らせる事態となり、マネージャーは謝罪に追われる。そんなことが日常茶飯事なのがアメリカのホテルなのだ。

そうした環境下に於いて、ハイレベルのサービスを保つために用意されたのが、周到に作られたマニュアル。どんなスタッフでも、マニュアルに沿って動いている限り、ゲストに不満を持たれない。そうしたオペレーションを目指し、あらゆる角度からマニュアルを進化させてきた。それゆえ、クオリティの高いホテル会社になればなるほど、クオリティの高いマニュアルがあると言われる。

そんなアメリカのホテルでも、自己啓発のセミナーを受けさせられることはある。だが、それを受けるのはリーダー格にあたるマネージャーのみで、その他のスタッフが受けることはない。その他のスタッフの多くにとって、セミナーは煩わしいだけに過ぎない。マネージャーが彼らを引っ張って行くポジションにいるので、マネージャーだけが自分に磨きをかける。

また、アメリカの多くのホテルはユニオンに加盟している。そして、多くのスタッフはユニオンのメンバーとなる。ホテルは、パフォーマンスが悪いという理由でユニオンのメンバーを解雇することはできないから、彼らの雇用は確固たるものとなる。一方、マネージャーはユニオンのメンバーにはならない。なれば、そこで出世を放棄したことになるからだ。

一握りのリーダー的存在となるマネージャーが旗を持ち、ユニオンに加盟したスタッフを引っ張っていく。だが、ユニオンの傘下で雇用が安定している彼らに危機感はなく、危機感の無い者が行うパフォーマンスはなかなかハイレベルなものにはなり得ない。手かせ足かせに縛られながら、強いリーダーシップと、すぐれたマニュアルの力で運営を成り立たせているのがアメリカのホテルなのだ。

2023.4.27公開

関連コラム

私が見たアメリカのホテル バックナンバー
奥谷啓介氏

著者:奥谷 啓介

1960年東京都生まれ。ウエステインスタンフォード&プラザシンガポール、ハイアットリージェンシーサイパン等勤務の後、1994年よりニューヨークのプラザホテルに就職。2005年プラザホテルの閉館に伴い退職。現在はニューヨークにてホテルコンサルタントを、また2023年6月からは長年の夢であった小説家としてデビュー。ホテルマンの経験を活かし多方面で活躍中。

・奥谷 啓介オフィシャルサイト

<著者紹介>

・超一流の働き方

ビートルズ・ケネディ大統領・サウジの大富豪……全世界のVIPらに愛され、マネージャーとして超一流の世界で学んだ世界標準の「サービス」「心の持ち方」「自分の活かし方」「生き方」を公開!

超一流の働き方

・なぜ「お客様は神様です」では一流と呼ばれないのか

「アメリカのホテルで1万円儲かることが、日本のホテルでは3,780円しか儲からない」といわれるほど世界最低レベルの生産性。働けど働けど儲からないワーキングスタイルに苦しめられるのはもうやめよう。

なぜ「お客様は神様です」では一流と呼ばれないのか

・はえくんの冒険(原作:アントニオ猪木、著:ケニー奥谷、絵:八雲)

ブラジルの中央、マッドグロッソにある牧場に生まれた「はえくん」の物語。原作のアントニオ猪木氏が自身の体験をもとに長年あたためてきた企画が、奥谷氏の手により絵本になりました。大人が読んでも楽しめる愛と友情の物語です。

はえくんの冒険

・サービス発展途上国日本 - 「お客様は神様です」の勘違いが、日本を駄目にする

サービスを向上させるにはスタッフを幸せにすることが一番の近道。アメリカの超一流ホテルでの経験から綴る業界改革論。

サービス発展途上国日本 - 「お客様は神様です」の勘違いが、日本を駄目にする

・海外旅行が変わる ホテルの常識

「プラザ」元マネージャー直伝、一流ホテルで恥をかかない滞在術。この一冊があなたのアメリカ滞在を変える!レジャーはもちろん、ビジネスにも役立つ情報の集積。国際人の責任として、海外に行く前にその国の常識を学ぼう。

海外旅行が変わる ホテルの常識

・世界最高のホテル プラザでの10年間

アメリカのホテルはなぜこんなに不愉快なのか!?「日本人利用客」VS「アメリカ人従業員」。果てしないトラブルの非は、どちらにある?敏腕マネージャーがフロント・デスクの内側からみた「日米比較文化論」。

世界最高のホテル プラザでの10年間

このページの先頭へ戻る

貯めたポイントでマイルをゲット!
 
  • クチコミ投稿でアップルポイントを貯めよう!貯めたポイントでマイルをゲット!