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私が見たアメリカのホテル

アメリカの一流ホテルで日本人マネージャーとして10年間勤務した著者が、日々の仕事の中でふと目にしたシーンから、日米の文化的な違い、考え方の背景にあるものなどをつづります。 著者紹介はこちら>>

第100回

サービスを形成する法律と社会通念

ホテルイメージ

The Ritz-Carlton, Pentagon City

アメリカのサービスは法律によって強く形付けられている。法律で決められていることだから、グレーゾーンがないのが特徴。また、もともとアメリカは、差別問題を撤廃するために法律を強化してきたから、差別に対する罰則はとても手厳しいものになっている。

例えば、日本では、全館禁煙のレストランがあれば、全く禁煙になっていないレストランもある。法律で決められていなければこうなるのも当然。さらに、分煙になっているレストランもある。この分煙を、もしアメリカで行ったとしたら、まず室内喫煙による法律違反で営業停止。プラス、ゲストには禁煙と喫煙の選択を与えたにもかかわらず、スタッフには選択を与えずに仕事をさせたとして、差別への罰則も科せられることになる。差別への賠償責任は大きな額になるので、よほどしっかりした保険に入っていないかぎり、閉業に追い込まれるのが常だ。「アメリカも日本のように分煙にすればいいのに」という日本人スモーカーがいるが、差別という問題があるから、できないのだ。

この法律によって形成されるサービス体系は、ゲスト、スタッフ、そしてホテルオーナーの三者を平等に扱う。それゆえ、ゲスト、あるいはオーナーだけが優遇されることはなく、しっかりとスタッフの人権を守る働きをしている。

一方、社会通念によって形成されるサービスもある。例えば、アメリカの通念では、弱者を守らなければならなく、優先順位は、身障者、幼児、老人、そして女性へと続く。それゆえ、女性に荷物を持たせる男性はおらず、必然的に、女性のベルマンは存在しない。また、ハラスメントを防ぐため、男性トイレを掃除する女性スタッフもまずいない。女性スタッフが割り当てられているところでは、先に男性スタッフが入り、中に男性がいないことを確認後、ロープを張り、誰も入れないようにしてから掃除を行う手順をとる。

アメリカのホテル運営は大変だ!と思われるかもしれない。だが、こうした面倒なことも、理由をきけばすべて納得のいくことばかり。また、歴史を見ていると、アメリカで形成されたサービスが世界中に浸透してゆき、時間差はあるものの、それが当たり前のこととして確立されるようになっている。

世界各国からの観光客を多く迎える国々では、世界基準のサービスが必要とされる。それゆえ、アメリカで形成されたサービスの研究に時間を費やすことになる。

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奥谷啓介氏

著者:奥谷 啓介

1960年東京都生まれ。ウエステインスタンフォード&プラザシンガポール、ハイアットリージェンシーサイパン等勤務の後、1994年よりニューヨークのプラザホテルに就職。2005年プラザホテルの閉館に伴い退職。現在はニューヨークにてホテルコンサルタントを、また2023年6月からは長年の夢であった小説家としてデビュー。ホテルマンの経験を活かし多方面で活躍中。

・奥谷 啓介オフィシャルサイト

<著者紹介>

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