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私が見たアメリカのホテル

アメリカの一流ホテルで日本人マネージャーとして10年間勤務した著者が、日々の仕事の中でふと目にしたシーンから、日米の文化的な違い、考え方の背景にあるものなどをつづります。 著者紹介はこちら>>

第35回

国が違えばサービス比較はナンセンス

ホテルイメージ

The Westin Riverwalk, San Antonio

「なぜアメリカのホテルのサービスはこんなに悪いのか!」こんな質問が頻繁に届く。その度に私は言う。「サービスはそれぞれの国の文化に基づいてつくられているから、日本の文化の中で育った人にはアメリカのサービスの評価はできない。」と。

“ネクスト”とそっぽを向いたまま客を呼ぶ。動きはのろいし、となりのスタッフと笑い話をしている。注文を受け取った側が「サンキュー」と言い、彼らは「フフン」という。これがアメリカのファーストフードショップでよく見るスタッフの態度。日本人が「どちらが客か分からない」と腹を立てるのも無理はない。

アメリカは多種多様な人々の国だからサービスも多種多様になる。人は小さい頃からファーストフードショップの接客態度を見て育ち、自分がスタッフになったときには、同じような態度をとることになる。同様に、ファーストクラスホテルでは、そこのスタッフの態度を学ぶ。だから、同じサービス業でもタイプによってサービスに大きな差ができあがる。一方、日本は中流階級の国。ファーストフードだろうとファーストクラスホテルであろうと接客態度に大きな差は生まれなかった。

文化は大人から子供へと受け継がれるもの。日本の文化はサービス業に従事する人々の接客態度を統一させ、アメリカはサービス業のランクによって質の違うサービスを生みだした。私の主観で5段階評価をつけるなら、アメリカのサービスはタイプによって1から5。日本はタイプにかかわらず4となる。世界的に「日本のサービスは最高」と言われる理由は、どこに行っても、質の高いサービスを受けることができるからだ。

もうひとつの大きな違いは、アメリカのホテルは生産性を上げるために縦割り組織を組んでいるということ。これは役割分担を明確にして、自分の役割以外のことはしないという姿勢をとらせる。一方、日本では役割の枠を超えてサービスできるように、他の仕事の訓練もしている。日本人からすれば、誰に伝えてもサービスをしてくれる日本のホテルのほうが当然快適となる。だが、“自分のことは自分で行う”というアメリカ人気質にすれば、アメリカンスタイルのサービスが心地いい場合もある。

日本のスタイルにしてしまうと、スタッフの仕事を増やして生産性をあげられない状況を造りあげることになる。結果、給与があげられないうえに仕事は大変となり、優秀な人材のホテル離れを招くことになってしまう。アメリカのスタイルはそれを引き起こさない。日本のサービスとアメリカのサービス、あなたはどちらを支持するだろうか。

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奥谷啓介氏

著者:奥谷 啓介

1960年東京都生まれ。ウエステインスタンフォード&プラザシンガポール、ハイアットリージェンシーサイパン等勤務の後、1994年よりニューヨークのプラザホテルに就職。2005年プラザホテルの閉館に伴い退職。現在はニューヨークにてホテルコンサルタントを、また2023年6月からは長年の夢であった小説家としてデビュー。ホテルマンの経験を活かし多方面で活躍中。

・奥谷 啓介オフィシャルサイト

<著者紹介>

・超一流の働き方

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