アメリカン・エキスプレス
私が見たアメリカのホテル

アメリカの一流ホテルで日本人マネージャーとして10年間勤務した著者が、日々の仕事の中でふと目にしたシーンから、日米の文化的な違い、考え方の背景にあるものなどをつづります。 著者紹介はこちら>>

第52回

日米に見る食文化の違い

ホテルイメージ

The Beverly Hills Hotel

私が働いていた2005年当時、プラザホテルのフィレミニョンステーキは40ドルだった。普通のレストランでも、フィレミニョンは30ドル程度した。同様に、プラザのパスタが20ドルのとき、普通のレストランでも15ドルはした。このように、アメリカのレストランの値段は、ホテルであろうと一般のレストランであろうと、それほど大きな差はない。一方、日本を見てみると、高級ホテルのレストランと一般のレストランの値段の差はとても大きい。

一般的に言って、アメリカのレストランの値段には相場がある。ステーキを例にみれば、ホテルであろうと、一般のレストランであろうと、それほど肉の質に大きな違いはない。だから、値段も変わらなくなる。だが、日本となると、一流ホテルのレストランでだすステーキは、神戸牛であったり、松坂牛であったり、そこまで行かなくても、一般の牛の何倍もの値段がつく高い牛を使っていたりする。日本は食べ物へのこだわりがアメリカに比べとても強いから、このような大きな差が生まれる。さらに、アメリカ人がレストランを選ぶ基準を見ると、店の雰囲気も高い割合をしめているが、日本ならば、雰囲気がいくらよくても、味が最高でなければ高級レストランは維持できない。

アメリカは移民の国。人々がヨーロッパから入ってきたときに、その国の食文化を導入した。そして、相場というものがつくられてきた。上質の肉だからと言って、相場の2倍もの値段をつけたら、食べる人はいなくなる。アメリカン、フレンチ、イタリアン、皆同様にそれぞれの相場があり、それを守らなくては、商売は成り立たないのだ。

だが、一つだけ例外がある。それが和食だ。和食は、最近入ってきたものだから、相場ができあがらなかった。1人あたま400ドルするにもかかわらず、人気が高く予約がとれない和食レストランがニューヨークにはある。他国料理では、そんなレストランは探せない。そうした値段のつく和食レストランに通う人々は、億単位の年収を稼ぐトップエグゼクテイブだったり、個人事業主だったり、お金に糸目をつけない人々。彼らの舌は贅沢にできあがってしまい、味にうるさくなった。また、単に和食が美味しいだけでなく、健康食という点にも美徳を見出している。

こうした超高級和食レストランを保有するニューヨークのホテルはまだない。「それは日本の鉄人クラスの料理人だから可能なのだ」とよく言われるが、私はそうは思わない。アメリカ人はシェフの肩書きにこだわりはしない。鉄人クラスの料理の味が出せるシェフを雇えればいいのだ。いつどこで、どのホテルが挑戦するのか楽しみだ。

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私が見たアメリカのホテル バックナンバー
奥谷啓介氏

著者:奥谷 啓介

1960年東京都生まれ。ウエステインスタンフォード&プラザシンガポール、ハイアットリージェンシーサイパン等勤務の後、1994年よりニューヨークのプラザホテルに就職。2005年プラザホテルの閉館に伴い退職。現在はニューヨークにてホテルコンサルタントを、また2023年6月からは長年の夢であった小説家としてデビュー。ホテルマンの経験を活かし多方面で活躍中。

・奥谷 啓介オフィシャルサイト

<著者紹介>

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