アメリカン・エキスプレス
私が見たアメリカのホテル

アメリカの一流ホテルで日本人マネージャーとして10年間勤務した著者が、日々の仕事の中でふと目にしたシーンから、日米の文化的な違い、考え方の背景にあるものなどをつづります。 著者紹介はこちら>>

第87回

投資信託会社のホテル業参入

ホテルイメージ

Beverly Wilshire Beverly Hills A Four Seasons Hotel

1980年代、たくさんのホテルチェーンがあった。それが、1990年後半に起きたホテル業界の大編成で大きく変った。IT革命が生んだ最も優れた利点のひとつは、企業がエンドユーザーに直接コンタクトが取れるようになったことだった。各ホテル会社は、より多くの顧客を獲得するために、メンバーシップを作り、より多く泊まってくれた人により多くの特典を提供するようにした。より多く泊まってもらうためには、世界のいたるところに、デラックスからエコノミーまでのホテルをそろえなければならない。この考えが、ホテルのメガトレンド(巨大化)を創り上げた。

信託投資会社のスターウッドは、1995年に青木建設からウエスティンホテルズを買収すると、1998年には、シェラトンホテルズも買収。その後、W、メリデイアン、セントレージスブランドなど9つのブランドを増やし1000軒以上のホテルを参加に置くスターウッドホテルズアンドリゾートとなった。

スターウッドとシェラトンホテルズの獲得を争ったヒルトンホテルズは、1999年にダブルツリーホテルズ、エンバシースイート、ハンプトンインを含んだプロムスホテルズを買収し、ホテル数を4000近くまで増やした。その後、1967年に売却したヒルトンインターナショナルを買い戻す。だが、2007年にブラックストーン投資信託会社に買収される。

スターウッドホテルズアンドリゾートもヒルトンホテルズコーポレーションも投資信託会社をオーナーにもつホテルチェーンとなった。信託投資会社の仕事は、なんと言っても株価を上げること。ホテルが高い利益を出さなければ、株価は上がらない。そこで、ヒルトンホテルズを買収したブラックストーンは、ヒルトンホテルズの証券取引所での上場を廃止し、ホテルが多くの利益をあげられるように、オペレーションの見直しに入った。

アメリカの大都市にある多くのヒルトンホテルでは、利益率の悪いルームサービスとミニバーを辞め、レストランは朝食の場所だけを残して閉めた。代わりに、ロビーに洒落た売店を早朝から深夜までオープンし、ゲストがそこで買ったものを部屋で食べられるようにした。さらに、海外でのホテル数を増やした。フランチャイズ、あるいは、マネージメント契約(運営委託契約)は、投資を全く必要としなく、利益だけを得られるシステムだ。これにより、買収から6年をかけ、2013年12月にヒルトンホテルズを再上場させたブラックストーンは、約8700億円もの利益を出すことに成功している。

ホテルが生み出す利益は大きくないから、ホテルのオーナーはあまり儲からない。一方で、ホテルチェーンのオーナーとして存在する投資信託会社は、ホテル業を利用して大きな利益を出すことができる。これから益々、投資信託会社のホテル業参入は盛んになってくるだろう。

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奥谷啓介氏

著者:奥谷 啓介

1960年東京都生まれ。ウエステインスタンフォード&プラザシンガポール、ハイアットリージェンシーサイパン等勤務の後、1994年よりニューヨークのプラザホテルに就職。2005年プラザホテルの閉館に伴い退職。現在はニューヨークにてホテルコンサルタントを、また2023年6月からは長年の夢であった小説家としてデビュー。ホテルマンの経験を活かし多方面で活躍中。

・奥谷 啓介オフィシャルサイト

<著者紹介>

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