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私が見たアメリカのホテル

アメリカの一流ホテルで日本人マネージャーとして10年間勤務した著者が、日々の仕事の中でふと目にしたシーンから、日米の文化的な違い、考え方の背景にあるものなどをつづります。 著者紹介はこちら>>

第25回

お客様は神様ですの勘違いが日本を駄目にする

ホテルイメージ

Hotel Nikko San Francisco

私の新刊、「サービス発展途上国日本」の中には、日本のホテルマンを対象に行ったアンケート調査を基に書いた章がある。アンケート調査によってでてきた数字を見て、私は正直愕然とした。あまりにも多くのホテルマンが仕事に失望していたからだ。

仕事を辞めたい、あるいは辞めたいと考えたことがあるという人が73%もいた。その理由の一つとしてあがっていたのが、ゲストとスタッフの間にある大きな上下関係だった。

アメリカにはもともと奴隷文化があった。それを排除するために、血みどろの戦いを繰りひろげた歴史がある。リンカーンの奴隷解放宣言が1863年。その99年後に、ケネデイー大統領が人種差別撤廃法案を通す。しかし、その後も、マーチンルーサーキングJR牧師が殺害されるなど、人種差別の戦いはつづいた。

1972年、プラザにウィスコンシン州、州立大学の女性の助教授から一通の手紙がとどいた。それは、プラザのメインダイニングに女性同士で入れてもらえなかったことへの抗議文だった。当時、多くの格式あるレストランでは、女性同士では入ることが許されていなかったのだ。この頃には、女性の地位向上を求める運動も活発化していた。

私がプラザに赴任したのが1994年。そのときにはもう差別を全く感じさせない社会組織ができあがっていた。つまり、アメリカは1960年からの30余年の間に、急速に差別問題を解決したことになる。今、人はみな同じ目線で人を見なければいけないという強い社会通念が存在する。会社では、部下が上司をファーストネームで呼ぶ。これは立場の差はあっても、人間としては対等であるということの表れだ。ホテルでも、ゲストとスタッフは対等な立場で向き合いフレンドリーな関係を保つ。

人は問題があれば問題を解決する。一方、問題がないと、問題を作りあげてしまう習性を持つ。日本には、激しい差別撤廃紛争が起こらなかったから、アメリカのような強い対等意識は社会通念化しなかった。厳しいゲストの要求に耐えられずにホテルを辞めていくスタッフは少なくない。職業格差と嘆くものさえいる。私が知っている限り、アメリカのホテルでは考えられない現象だ。

「お客様は神様です」は、三波春夫さんの名言。だが、その真意は、「舞台に立つとき、敬虔な心で神に手を合わせたときと同様に、心を昇華しなければ真実の藝は出来ない」ということから生まれたことという。そして、「人間尊重の心が薄れたこと、そうした背景があったからこそ、この言葉が流行ったのではないだろうか」とも語っておられる。

知らず知らずの間に育ってしまった、お金を払うものが高い地位にたつのが当たり前という考え。私は訴えたい。この考えを正そうと。さもなければ、アメリカの2.5倍も高い自殺率を下げることはできない。また、アメリカのホテルに見るような、笑いの溢れる楽しい職場環境をつくることも難しいだろう。

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奥谷啓介氏

著者:奥谷 啓介

1960年東京都生まれ。ウエステインスタンフォード&プラザシンガポール、ハイアットリージェンシーサイパン等勤務の後、1994年よりニューヨークのプラザホテルに就職。2005年プラザホテルの閉館に伴い退職。現在はニューヨークにてホテルコンサルタントを、また2023年6月からは長年の夢であった小説家としてデビュー。ホテルマンの経験を活かし多方面で活躍中。

・奥谷 啓介オフィシャルサイト

<著者紹介>

・超一流の働き方

ビートルズ・ケネディ大統領・サウジの大富豪……全世界のVIPらに愛され、マネージャーとして超一流の世界で学んだ世界標準の「サービス」「心の持ち方」「自分の活かし方」「生き方」を公開!

超一流の働き方

・なぜ「お客様は神様です」では一流と呼ばれないのか

「アメリカのホテルで1万円儲かることが、日本のホテルでは3,780円しか儲からない」といわれるほど世界最低レベルの生産性。働けど働けど儲からないワーキングスタイルに苦しめられるのはもうやめよう。

なぜ「お客様は神様です」では一流と呼ばれないのか

・はえくんの冒険(原作:アントニオ猪木、著:ケニー奥谷、絵:八雲)

ブラジルの中央、マッドグロッソにある牧場に生まれた「はえくん」の物語。原作のアントニオ猪木氏が自身の体験をもとに長年あたためてきた企画が、奥谷氏の手により絵本になりました。大人が読んでも楽しめる愛と友情の物語です。

はえくんの冒険

・サービス発展途上国日本 - 「お客様は神様です」の勘違いが、日本を駄目にする

サービスを向上させるにはスタッフを幸せにすることが一番の近道。アメリカの超一流ホテルでの経験から綴る業界改革論。

サービス発展途上国日本 - 「お客様は神様です」の勘違いが、日本を駄目にする

・海外旅行が変わる ホテルの常識

「プラザ」元マネージャー直伝、一流ホテルで恥をかかない滞在術。この一冊があなたのアメリカ滞在を変える!レジャーはもちろん、ビジネスにも役立つ情報の集積。国際人の責任として、海外に行く前にその国の常識を学ぼう。

海外旅行が変わる ホテルの常識

・世界最高のホテル プラザでの10年間

アメリカのホテルはなぜこんなに不愉快なのか!?「日本人利用客」VS「アメリカ人従業員」。果てしないトラブルの非は、どちらにある?敏腕マネージャーがフロント・デスクの内側からみた「日米比較文化論」。

世界最高のホテル プラザでの10年間

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