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私が見たアメリカのホテル

アメリカの一流ホテルで日本人マネージャーとして10年間勤務した著者が、日々の仕事の中でふと目にしたシーンから、日米の文化的な違い、考え方の背景にあるものなどをつづります。 著者紹介はこちら>>

第130回

ジェントリフィケーションとホテル

ホテルイメージ

1950年初頭から、マンハッタンのソーホーに芸術家が住みつき始めた。当時のソーホーは、使われなくなった工場がひしめきあう場。本来、住居地区でない所に暮らすのは違法行為だが、これは大目に見られ、芸術家たちは工場をアパート代わりにして暮らすことができた。彼らが集まった理由は主に2つ。一つは家賃が安かったこと。もう一つは、ロフトと呼ばれる、天井が高くて、中二階に寝床をつくれるアパートが多かったこと。それはキャストアイロン方式と呼ばれる1840年にイギリスで開発された建築様式で造られたビルに存在していた。

芸術家が集まったことで、彼らを対象としたお店がオープンしだす。変わった場所にできた居住区と洒落た店。それにひかれ、富裕層がやってくる。そうこうしているうちに、1973年に、キャストアイロン方式の建物が“文化財”に指定された。さらに、1978年には、“ランドマーク”にまで認定されてしまった。歴史が浅いがゆえに、“歴史的”とつく物に惹かれるアメリカ人。彼らにとって、ソーホーは憧れの場に変わって行った。

富裕層になら部屋を高値で貸せる。また、高値で売れるから、10年もしないうちに、家賃も売値も10倍にまで跳ね上がり、芸術家たちは追われる身となってしまった。次に、彼らが移住した先はトライベッカ。トライベッカでも同じ結末を迎えた後、彼らはミートパッキングエリアに移動。だが、どこに行っても同じ結果が待っていた。今は、ブルックリンのウイリアムズバーグやダンボが同じ歴史をたどっている。これをジェントリフィケーションという。 ジェントリフィケーションが起きた地域では、マンションの売値も家賃もとても高い。だが、そこにあるホテルの値段が上がったかと言えば、それは別の話。その地に価値を見出したのはニューヨーカーであり、ホテルに泊まりに来る人々ではないからだ。

ニューヨークのホテルに土地値はない。ホテルの値段は、そのホテルがいくらの儲けを出しているかで決まる。なぜなら、購入する人(企業)は「いくらの利回りがでるか」を見るからだ。よって、儲けの多いホテルは高く売れるが、少ないホテルは安くしか売れない。ジェントリフィケーションが起きた場所であろうとも、それでホテルの値段が上がることはない。

時代にマッチした運営とマーケティング戦略のみがホテルの収益を伸ばす。オフィスビルのように、何年にも渡ってレンタル契約をする仕組みは、安定した収益をもたらす一方、短期間に急激な増加を期待することはできない。だが、ホテルは、混んでいるときには、これでもかというところまで部屋料金を上げることができる。このビジネスには、安定はないが、夢がある。この夢にひかれ、ときには痛い涙を流しながらも、懲りることなく、多くの投資家はホテルの売買を続けていく。

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奥谷啓介氏

著者:奥谷 啓介

1960年東京都生まれ。ウエステインスタンフォード&プラザシンガポール、ハイアットリージェンシーサイパン等勤務の後、1994年よりニューヨークのプラザホテルに就職。2005年プラザホテルの閉館に伴い退職。現在はニューヨークにてホテルコンサルタントを、また2023年6月からは長年の夢であった小説家としてデビュー。ホテルマンの経験を活かし多方面で活躍中。

・奥谷 啓介オフィシャルサイト

<著者紹介>

・超一流の働き方

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超一流の働き方

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「アメリカのホテルで1万円儲かることが、日本のホテルでは3,780円しか儲からない」といわれるほど世界最低レベルの生産性。働けど働けど儲からないワーキングスタイルに苦しめられるのはもうやめよう。

なぜ「お客様は神様です」では一流と呼ばれないのか

・はえくんの冒険(原作:アントニオ猪木、著:ケニー奥谷、絵:八雲)

ブラジルの中央、マッドグロッソにある牧場に生まれた「はえくん」の物語。原作のアントニオ猪木氏が自身の体験をもとに長年あたためてきた企画が、奥谷氏の手により絵本になりました。大人が読んでも楽しめる愛と友情の物語です。

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「プラザ」元マネージャー直伝、一流ホテルで恥をかかない滞在術。この一冊があなたのアメリカ滞在を変える!レジャーはもちろん、ビジネスにも役立つ情報の集積。国際人の責任として、海外に行く前にその国の常識を学ぼう。

海外旅行が変わる ホテルの常識

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