アメリカン・エキスプレス
私が見たアメリカのホテル

アメリカの一流ホテルで日本人マネージャーとして10年間勤務した著者が、日々の仕事の中でふと目にしたシーンから、日米の文化的な違い、考え方の背景にあるものなどをつづります。 著者紹介はこちら>>

第86回

アメリカの労働システム

ホテルイメージ

The Waldorf Towers

アメリカの労働システムは分業制を採用し、複数で相談しながら前に進むという状況をつくらない。

分業制を採用する主な理由は、まず、人と相談しながら動く方法は効率が悪いという点が挙げられる。話し合いをすれば、人々の考えが違うとき、解決方法を見つけなくてはならない。それには時間がかかる。時間がかかるということは、余分な人件費がかかるということだ。ひとりで、自分の思うように動かすことができれば、時間がセーブできる上に、人件費も一人分で済む。

二つ目は、複数で行えば、個人の能力を正確に測ることができないということが挙げられる。会社は能力のある者だけを使いたい。だから、個人の能力が浮き彫りになるシステムを採用し、能力がない者には辞めてもらう。個人の側からすれば、自分の能力に見合った給与と昇進を得るために、個人の能力が明確に現れるシステムにしてもらわなければ困る。このシステムがあり、初めて真の能力主義が可能となるからだ。

マネージメントレベル(管理職)で働く者の多くは、こうしたシステムがなければ働かない。また、働いたとしても、不公平を言い出すことになる。不公平は労働環境を悪くするばかりでなく、ときとして、訴訟を引き起こし、会社にダメージを負わせることになる。こうした理由で、分業制の労働システムがアメリカ社会では必要とされているのだ。

一方、能力の差が顕著にでない仕事もある。ホテルで言えば、ウエイター&ウエイトレス、ベルマン、ドアマンなどだ。彼らの“仕事ができる、できない”は、主に経験の積み重ねに左右される。だから、彼らの収入の大部分を占めるチップは、一度、ホテルが集めて、勤続年数の長い者順に多くを分配するところが多い。仕事内容では能力差が計れないので、勤続年数で差をつけるのだ。こうした仕事をするスタッフの多くはユニオン(労働組合)に入っていて、即解雇という状況から自分を守る。その代わり、マネージャークラスへの昇進はない。

さらに、こうした仕事でも分業制は厳格に分けられていて、部外者が手をだすことは許されない。例えば、VIPマネージャーが、ホスピタリティーを見せようと、ゲストの荷物を持つことは禁止されている。それは、ベルマンが稼ぐチップを奪う行為になるからだ。また、ベルマンとドアマンも違う部署に属しているから、彼らの間にも、仕事の分担がある。だから、チップも別々にもらうことになる。

ユニオンとホテルをマネージメント(運営)する側との間には契約がある。それは“ユニオン・コントラクト”と呼ばれ、分業制を厳格に守る役割を果たしている。それゆえ、ユニオン・コントラクトのあるホテルは、“サービスが悪い”と言われる傾向が強くなる。ニューヨークのホテルで言えば、75%がユニオン・コントラクトのあるホテルだ。外からでは見えないこうした内情に、管理職にいるスタッフは苦労を強いられることになっている。

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奥谷啓介氏

著者:奥谷 啓介

1960年東京都生まれ。ウエステインスタンフォード&プラザシンガポール、ハイアットリージェンシーサイパン等勤務の後、1994年よりニューヨークのプラザホテルに就職。2005年プラザホテルの閉館に伴い退職。現在はニューヨークにてホテルコンサルタントを、また2023年6月からは長年の夢であった小説家としてデビュー。ホテルマンの経験を活かし多方面で活躍中。

・奥谷 啓介オフィシャルサイト

<著者紹介>

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