アメリカン・エキスプレス
私が見たアメリカのホテル

アメリカの一流ホテルで日本人マネージャーとして10年間勤務した著者が、日々の仕事の中でふと目にしたシーンから、日米の文化的な違い、考え方の背景にあるものなどをつづります。 著者紹介はこちら>>

第47回

ホテルチェーンの変遷

ホテルイメージ

Waldorf Astoria Park City

私がホテル業界に入った1984年当時からの27年間で、ホテルチェーンは大きな変遷を経てきた。当初は、まだ日本ではヒルトン、ハイアット、シェラトン程度しか知られていなかった時代。私が「ウエスティンホテル」というと、「そんなホテルチェーンは聞いたことがない」と言われたものだった。だが、ウエスティンホテルは、アメリカ最古のホテルチェーンであり、当時、「アメリカ優良企業ベスト100」に入る唯一のホテルチェーンだった。

日本で知られていなかった理由は、それぞれのホテルが独自の名前を持っていたからだ。たとえば、ニューヨークのプラザ、サンフランシスコのセントフランシス、シアトルのオリンピックホテルなど、いずれもその都市を代表するホテルであり、ウエスティンが実際のオーナーでもあったが、名前をウエスティンホテルとしていなかった。東南アジアでも、シャングリラシンガポール、シャングリラ香港が、ウエスティンホテルにより運営されていた。これらのホテルに泊まりに行って、掲げられている旗やコースターにあるウエスティンのロゴを見て、はじめてウエスティンが運営していることを知ることになった。当時のウエスティンはアメリカで最高級ホテルチェーンとして君臨していた。まだ、フォーシーズンやリッツカールトンは小さくて、ホテルチェーンとしてはマイナーな存在だった。

私がプラザに赴任した1994年当初、プラザはウエスティンホテルとマーケテイング契約を結んでいた。だが、オーナー権がドナルドトランプ氏からサウジアラビアのアルワリ―ド王子の手に渡ると、フェアモントホテルが運営するホテルに変わった。偶然にも、その後、ウエスティンホテルが所有していたワシントンDCのホテルとシアトルのオリンピックホテルをフェアモントが運営をするようになり、フェアモントは、最高級ホテルチェーンとして君臨していた時代のウエスティンホテルを思わせるホテルチェーンに変わってきている。

90年代後半になると、ホテルチェーン同士の吸収合併が始まった。大きくなればなるほどユーザーの囲い込みができる。だから栄えるためには、大きくならなくてはならないという戦略が動きだしたのだ。ウエスティンを傘下においたスターウッドグループがシェラトンを買収。ヒルトンがダブルツリーやエンバシ―スイートを吸収。インターコンチネンタルもバスグループの傘下となりクラウンプラザグループと資本を共有。ホテルチェーンは、ヒルトングループ、マリオットグループ、スターウッドグループ、インターコンチネンタルグループ、ハイアットグループの6大ホテルチェーンが争う時代を迎えた。

現在、メガホテルチェーンとは違った展開で、最高級路線を走るのがフォーシーズン、リッツカールトン、そしてフェアモントだ。リッツカールトンはマリオットの傘下だが、独自のブランドイメージを守っている。フォーシーズンとフェアモントのバックには、ともにサウジアラビアの大富豪アルワリ―ド氏がついている。囲い込みが有利とされた時代も、インターネットの普及により変わりつつあるように思える。ホテルの細かい情報が簡単に取れるようになったこと、そして、それにより個人の好みを追求しやすくなったことが、その原因だろう。ニューヨークでは、バックにつくチェーンの大きさに関係なしに、個性派ホテルがそれぞれのファン層に支持されて流行っている。

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奥谷啓介氏

著者:奥谷 啓介

1960年東京都生まれ。ウエステインスタンフォード&プラザシンガポール、ハイアットリージェンシーサイパン等勤務の後、1994年よりニューヨークのプラザホテルに就職。2005年プラザホテルの閉館に伴い退職。現在はニューヨークにてホテルコンサルタントを、また2023年6月からは長年の夢であった小説家としてデビュー。ホテルマンの経験を活かし多方面で活躍中。

・奥谷 啓介オフィシャルサイト

<著者紹介>

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