アメリカン・エキスプレス
私が見たアメリカのホテル

アメリカの一流ホテルで日本人マネージャーとして10年間勤務した著者が、日々の仕事の中でふと目にしたシーンから、日米の文化的な違い、考え方の背景にあるものなどをつづります。 著者紹介はこちら>>

第44回

プラザホテル買収劇の裏話

ホテルイメージ

Millennium Biltmore Hotel Los Angeles

私がプラザで働いた1994年の暮れから2005年の2月に至るまでの間に、プラザのオーナーは2回代わった。着任したときのオーナーはドナルドトランプ氏。その頃は既にトランプ氏の勢いに陰りでていて、プラザが売られるのは時間の問題と言われていたときだった。ある朝、ニューヨークポストが「トランプ氏、プラザをブルネイの王様に売却」という記事を一面に掲載。出勤してみると、プラザの前にある公園“グランドアーミープラザ”では、たくさんの人々がカードを持って叫んでいた。「アメリカの象徴を外国人に売るな!」と。その昼には、トランプ氏がでてきて、プラザの前で記者会見を行う。「私はプラザを売りはしない」と。それで、デモは収まったものの、水面下で売却の話は着々と進行していた。それから3か月もたたないうちに、プラザは、シンガポールのデベロッパー、CDL(ミリ二アムホテルズのオーナー)とサウジアラビアのアルワリ―ド王子に折半で買われた。結局、プラザは外国の人の手に渡ったのだった。

それまで、トランプオーガニゼーションにより運営されていたプラザは、アルワリ―ド王子がフェアモントホテルズのオーナーだったことで、フェアモントホテルズに運営委託されるのが当然の成り行きと思われた。だが、スターウッドホテルズが動きだす。当初、プラザはウエステインホテルズとマーケテイング契約を行い、ウエステインホテルの一つとして集客を行っていた。当時のスターウッドホテルズ(ウエステインホテルを傘下に置く会社)のCEO、バ―テル氏がシンガポールに飛び、CDLの総帥であるクエック氏との交渉に臨んだ。50%のオーナー権を持っているCDLが、“プラザをウエステインホテルズに運営させたい”と言えば、すんなりとフェアモントホテルズが運営権を取ることはできなくなる。今でこそ、最高級インターナショナルホテルチェーンにまで成長したが、当時のフェアモントは、まだアメリカ国内に6軒のホテルしか持たない小さなチェーン。どう考えても、ウエステインに運営させるほうが、多くの収入を期待できる。しかし、バ―テル氏の努力は実らず、フェアモントホテルズがプラザを運営することとなり、売却された日に、トランプオーガニゼーションから来ていた社長は去り、フェアモントホテルズから総支配人がやってきた。働いている我々はどうなるものかと不安だったが、変化は社長が去って総支配人が入ってきただけに終わった。

そして、2005年に再びオーナー権が移行。今度のオーナーはプラザを時価の2倍近い値段で買い取った。一部の日本のマスコミは、“同時多発テロ以後、業績が行き詰っていたことが売却の理由”と報じたが、それは全く的外れな報道で、実際はプラザの業績は住宅バブルの好景気にのりとても良いものだった。だが、2倍もの値段を提示されては、誰でも売りたくなるのは当たり前。彼らの目的は、ホテルを運営するのではなく、プラザを分譲マンションに改造して売ることを狙ったものだった。時価の2倍もの値段で買っても、分譲マンションにして売れば、さらに1000億円以上はかるく利益がでると言われていた。しかし、ニューヨーク市民の猛反対にあい、計画は実行不可となる。結局、建物の3分の1をホテルとして残すことに決定。3年間の大改造を経て、外見は昔のままだが、中身は新築のホテルとして2008年に再オ―プンして現在に至っている。運営は変らず、フェアモントホテルズが行っている。

現在、282室の小柄なホテルとなったものの、館内は昔のイメージを残しながら、とても豪華な造りをしている。私が働いていたときとは違い、老朽化が無いという点で日本人に適したホテルになっている。

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私が見たアメリカのホテル バックナンバー
奥谷啓介氏

著者:奥谷 啓介

1960年東京都生まれ。ウエステインスタンフォード&プラザシンガポール、ハイアットリージェンシーサイパン等勤務の後、1994年よりニューヨークのプラザホテルに就職。2005年プラザホテルの閉館に伴い退職。現在はニューヨークにてホテルコンサルタントを、また2023年6月からは長年の夢であった小説家としてデビュー。ホテルマンの経験を活かし多方面で活躍中。

・奥谷 啓介オフィシャルサイト

<著者紹介>

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