アメリカン・エキスプレス
私が見たアメリカのホテル

アメリカの一流ホテルで日本人マネージャーとして10年間勤務した著者が、日々の仕事の中でふと目にしたシーンから、日米の文化的な違い、考え方の背景にあるものなどをつづります。 著者紹介はこちら>>

第27回

枕チップなど必要ない?

ホテルイメージ

Mandarin Oriental Miami

「チップが一番難しい」とよく言われる。「枕チップなんて必要ないと言われたけど本当?」という質問も受ける。たとえ枕チップが必要ないからと言っても、他の部署でも同じようにチップを軽く考えてはいけない。なぜなら、チップはアメリカのサービス業で働く人々にとっては、主たる労働賃金だからだ。ウエイターが稼ぐチップをラフに計算してみよう。朝食が30ドルとすると、相場が15~22%なので、チップで支払われるのが4ドル50セント~6ドル60セント。5ドルとした場合、1人のウエイターが15人を担当して75ドル。朝なら2回転はするから150ドル。ウエイターは朝の3時間程度の時間で150ドルのチップを稼ぐことになる。

一方、ハウスキーパーは部屋の掃除に30分程度は時間をかける。枕チップで2ドルあったとしても、1時間で4ドル。3時間でも12ドルにしかならない。ウエイターの150ドルとは大きな違いだ。この差をなくすために、ハウスキーパーの基本給はウエイターのそれよりもかなり高く設定されている。だから、“枕チップなど必要ない”という意見がでることになった。ウエイターもハウスキーパーも、彼らの基本給は彼らがチップで稼ぐ金額に基づいて決められるから、必然的にチップの相場もできあがる。彼らは相場額をもらえないと怒る。だから、アメリカに行く際には、それぞれの部署がとるチップの相場を知っておく必要があるのだ。さもないと、知らないうちに相手を立腹させてしまうことになる。

それでは相場はいくらなのか?これはレストランのチップをのぞいては、ガイドブックには書かれてはいない。ホテル内部で働いていないとわからない情報だからだ。たとえば、3年前のニューヨークでは、ベルマンの相場は荷物1個につき2ドル。ドアマンの相場は荷物とともにタクシーで到着した場合、1人について1ドル25セントだった。これはホテルと労動組合が決めた団体客に適応される料金で、一般の人が払っている平均金額に基づいた数字だった。つまりこれぐらいが相場ということになる。払い方にもコツがあるので、さらに詳しくは「海外旅行が変わるホテルの常識」(ダイヤモンド社)を参考にしていただけたらと思う。

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奥谷啓介氏

著者:奥谷 啓介

1960年東京都生まれ。ウエステインスタンフォード&プラザシンガポール、ハイアットリージェンシーサイパン等勤務の後、1994年よりニューヨークのプラザホテルに就職。2005年プラザホテルの閉館に伴い退職。現在はニューヨークにてホテルコンサルタントを、また2023年6月からは長年の夢であった小説家としてデビュー。ホテルマンの経験を活かし多方面で活躍中。

・奥谷 啓介オフィシャルサイト

<著者紹介>

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