アメリカン・エキスプレス
私が見たアメリカのホテル

アメリカの一流ホテルで日本人マネージャーとして10年間勤務した著者が、日々の仕事の中でふと目にしたシーンから、日米の文化的な違い、考え方の背景にあるものなどをつづります。 著者紹介はこちら>>

第99回

大手ホテルチェーンの抵抗勢力

ホテルイメージ

The Muse Hotel

「世界中の至る場所に、エコノミーから超デラックスまで様々なカテゴリーのホテルを揃えることが競争に勝つ手段である」この理論の下に、IT革命後、ホテルチェーンは吸収合併を行ってきた。

現在、最大のホテル数を持つに至ったマリオットホテルのメンバーであれば、最高級ホテルに泊まりたいときは、リッツカールトン、エコノミーに泊まるときは、コートヤードがある。その間にも、17ものブランドホテルがあり、もはや他のチェーンホテルを使う必要はない。マリオットホテルの傘下にあるホテルだけに宿泊して、ポイントをためれば、上級メンバーとなり、アップグレードなどの特典を利用できるようになる。多くのアメリカ人は、こうした大手ホテルチェーンの流れに乗った。

“もはや独立単体運営のホテルでは生き残れないだろう”と多くがそう思った。だが、この流れに対抗するホテルが出現し始める。ニューヨークを見れば、現在、平均稼働率も平均部屋料金でも、大手ホテルチェーンを凌ぐ勢いだ。それは“ブティックホテル”と呼ばれる類のホテル。

ブティックホテルを一言でいうなら、“ハイセンスなデザイナーズホテル。狙いは20代から50代までの、おしゃれ感覚を大切にする人々”。欧米人は、自分の個性を大切にする。そして、彼らの個性は、主にその人が持つお金に決定付けられる。例えば、欧米人で、ルイヴィトン製品を持っている人はごく一握りの富裕層に限られる。収入が特別高くなければ、ルイヴィトンは自分のおしゃれの範疇にはない。収入に見合ったもので、自分の個性を作るのが欧米人の習慣。そして、欧米には、個性をメンバー特典よりも大切に考える人々が多く存在していた。ホテルが追求してきた“快適で便利”だけでは、もはや物足りない。“ホテルは自分たちのライフスタイルに即したものであって欲しい”という要求から生まれた産物だった。

ブティックホテルを成功させる大きなツールとなったものも、また、ホテル統合時代を作りあげたIT技術だった。予約サイトのホテルズドットコム、エクスペディア、トリップアドバイザーなどは、実際に宿泊した人々の生の声まで提供している。ホテルに自分の個性を求める人々は、それらを利用して、容易に自分にあったホテルを選ぶことができる。

現在、大手ホテル予約サイトには、ニューヨークだけでも、129軒ものブティックホテルがリストアップされている。その数は2011年から急激に伸びたものだ。そして、この様子をただ見ているわけにはいかない大手ホテルチェーンもまた、ブティックホテルの開発に乗り出している。これからの展開がどうなっていくのか目が離せない。

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私が見たアメリカのホテル バックナンバー
奥谷啓介氏

著者:奥谷 啓介

1960年東京都生まれ。ウエステインスタンフォード&プラザシンガポール、ハイアットリージェンシーサイパン等勤務の後、1994年よりニューヨークのプラザホテルに就職。2005年プラザホテルの閉館に伴い退職。現在はニューヨークにてホテルコンサルタントを、また2023年6月からは長年の夢であった小説家としてデビュー。ホテルマンの経験を活かし多方面で活躍中。

・奥谷 啓介オフィシャルサイト

<著者紹介>

・超一流の働き方

ビートルズ・ケネディ大統領・サウジの大富豪……全世界のVIPらに愛され、マネージャーとして超一流の世界で学んだ世界標準の「サービス」「心の持ち方」「自分の活かし方」「生き方」を公開!

超一流の働き方

・なぜ「お客様は神様です」では一流と呼ばれないのか

「アメリカのホテルで1万円儲かることが、日本のホテルでは3,780円しか儲からない」といわれるほど世界最低レベルの生産性。働けど働けど儲からないワーキングスタイルに苦しめられるのはもうやめよう。

なぜ「お客様は神様です」では一流と呼ばれないのか

・はえくんの冒険(原作:アントニオ猪木、著:ケニー奥谷、絵:八雲)

ブラジルの中央、マッドグロッソにある牧場に生まれた「はえくん」の物語。原作のアントニオ猪木氏が自身の体験をもとに長年あたためてきた企画が、奥谷氏の手により絵本になりました。大人が読んでも楽しめる愛と友情の物語です。

はえくんの冒険

・サービス発展途上国日本 - 「お客様は神様です」の勘違いが、日本を駄目にする

サービスを向上させるにはスタッフを幸せにすることが一番の近道。アメリカの超一流ホテルでの経験から綴る業界改革論。

サービス発展途上国日本 - 「お客様は神様です」の勘違いが、日本を駄目にする

・海外旅行が変わる ホテルの常識

「プラザ」元マネージャー直伝、一流ホテルで恥をかかない滞在術。この一冊があなたのアメリカ滞在を変える!レジャーはもちろん、ビジネスにも役立つ情報の集積。国際人の責任として、海外に行く前にその国の常識を学ぼう。

海外旅行が変わる ホテルの常識

・世界最高のホテル プラザでの10年間

アメリカのホテルはなぜこんなに不愉快なのか!?「日本人利用客」VS「アメリカ人従業員」。果てしないトラブルの非は、どちらにある?敏腕マネージャーがフロント・デスクの内側からみた「日米比較文化論」。

世界最高のホテル プラザでの10年間

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