アメリカン・エキスプレス
私が見たアメリカのホテル

アメリカの一流ホテルで日本人マネージャーとして10年間勤務した著者が、日々の仕事の中でふと目にしたシーンから、日米の文化的な違い、考え方の背景にあるものなどをつづります。 著者紹介はこちら>>

第120回

アメリカのホテルを育てた力

ホテルイメージ

アメリカのホテル内部では、目に見えない戦いが繰り広げられている。職は大切にしてはいるものの、できる限り楽な環境で仕事をしたい人々と、業績をあげるためには自己犠牲をも問わないという人々との間に、その戦いは存在する。

前者の多くは労働組合に入ることで、出世はできないが、働きやすい環境を作ってもらうことを選ぶ。労働組合がストを行えば、ホテルは立ち往生となるから、労働組合とは丁重に付き合わなくてはならない。労働組合とホテルを運営する側との間に結ばれている契約では、労働組合員はよほどのことがない限り解雇することはできない。また、全従業員の〇〇%は労働組合員を雇わなければならないとか、〇〇部は全て労働組合のスタッフで構成されなければならない、というような制限もある。

後者は、そうした条件で守られた人々を使いながら、よりよいサービスを提供し、ゲストの満足度をあげなければならない。満足度があがらなければ、リピーターは育たない。リピーターを育てられなければ業績はあがらない。業績をあげられないマネージャーはいらない、となってしまうからだ。

だが、労働組合員を教育し、ハイレベルのサービス精神を育てることなど最初からあきらめがほうがいい。もちろん、自己犠牲を辞さずに働く心を持った人もいないではない。だが、労働組合が定めた条件の中で働く人々に多くを期待することはできない。ゲストの苦情を処理している最中でも、勤務時間が終れば仕事を辞めて帰ってしまう。待たされたゲストは「この続きは明日」と、突如言われて憤慨することになる。目の前に長蛇の列ができていても、冗談を言いながらゆっくりと仕事をし、待たされている人の気持ちなど考えもしない。そうした状況は変えられない。

人の優劣に頼らず、ハイレベルなサービスを提供するには、優れたシステムをつくるしかない。それがアメリカのホテルの課題だった。また、ハイレベルなサービスを可能にするシステムを進化させながら、同時に、高い効率を生み出すシステムをも作り出してきた。逆説のようだが、アメリカのホテルを育てた大きな力は、サービス精神を持ち合わせていない労働力だったと言えよう。

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奥谷啓介氏

著者:奥谷 啓介

1960年東京都生まれ。ウエステインスタンフォード&プラザシンガポール、ハイアットリージェンシーサイパン等勤務の後、1994年よりニューヨークのプラザホテルに就職。2005年プラザホテルの閉館に伴い退職。現在はニューヨークにてホテルコンサルタントを、また2023年6月からは長年の夢であった小説家としてデビュー。ホテルマンの経験を活かし多方面で活躍中。

・奥谷 啓介オフィシャルサイト

<著者紹介>

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