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私が見たアメリカのホテル

アメリカの一流ホテルで日本人マネージャーとして10年間勤務した著者が、日々の仕事の中でふと目にしたシーンから、日米の文化的な違い、考え方の背景にあるものなどをつづります。 著者紹介はこちら>>

第154回

グランドハイアットの生みの親・ドナルドトランプ

ホテルイメージ

大統領選が近づき、世間の話題はコロナか大統領選かに2分されてきた。トランプと言えば、プラザホテルのオーナーだったことで知られるが、それ以外に、彼を有名にしたグランドハイアットの存在も忘れることができない。現在、世界で知られるブランドになっているが、その1号はトランプが建てたグランドハイアットだった。 1800年代後半にニューヨーク州、ハドソン川の汽船の渡しで財をなしたコーネリアス・バンダービルトという富豪がいた。のちに、汽船で儲けた財を投資し、アメリカ東海岸を中心に鉄道をひき、アメリカ歴代3本の指に入る大富豪になった。彼は鉄道王バンダービルトと異名をとり、ニューヨークの鉄道の拠点としてグランドデポを完成させている。鉄道王になる前の彼のニックネームはコモドア・バンダービルト。コモドアはその昔、海軍のキャプテンの上の位を示した称号。彼が汽船の渡しで活躍していた時代につけられた名称だった。

グランドデポが改築されグランドセントラルターミナルになったとき、それに隣接した大きなホテルが建てられた。名称は彼のニックネームに因んでコモドアホテル。1919年のオープン当時、アメリカ最大のホテルとして人気を誇ったが、1970年代後半の不況時代に解体されることが決定。それに「待った!」をかけたのが、当時、無名のドナルド・トランプだった。

彼は父親のフレッド・トランプのコネクションを借り、ニューヨーク市と交渉。結果、40年間の特別税法優遇措置を獲得。それを持って、ハイアットホテルズのオーナー、ジェイ・プリッツカーと交渉しマネージメント契約を含んだパートナーシップを結ぶ。その2つを武器に、投資家から資金を集めてコモドアホテルを大改装し、グランドセントラルステーションに隣接するホテル、グランドハイアットを1980年にオープンさせた。

後日、この不況時に、なぜニューヨーク市は特別減税など許したのか?また、ハイアットと交渉するときに、あたかも自分がホテルのオーナー権を獲得することが決定しているかのように見せかけたなど、いくつかの疑惑と避難を浴びることになった。だが、トランプは自身の著書「ニゴーシエイター」の中で、この成功例を自慢している。また、後日、パートナーであったプリッツカーと裁判沙汰になり、トランプは全てのオーナー権をプリッツカーに売却しオーナー権を下りている。

多大なるもめごとを引き起こしたものの、グランドハイアットの成功を皮切りに、トランプはニューヨークの不動産王として名をあげ、その後の、フィフスアベニュー沿いのトランプタワーの建設とプラザホテル買収に向かっていく。グランドハイアットの成功が無ければ、今のトランプはいなかったであろうとも言われている。

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奥谷啓介氏

著者:奥谷 啓介

1960年東京都生まれ。ウエステインスタンフォード&プラザシンガポール、ハイアットリージェンシーサイパン等勤務の後、1994年よりニューヨークのプラザホテルに就職。2005年プラザホテルの閉館に伴い退職。現在はニューヨークにてホテルコンサルタントを、また2023年6月からは長年の夢であった小説家としてデビュー。ホテルマンの経験を活かし多方面で活躍中。

・奥谷 啓介オフィシャルサイト

<著者紹介>

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