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私が見たアメリカのホテル

アメリカの一流ホテルで日本人マネージャーとして10年間勤務した著者が、日々の仕事の中でふと目にしたシーンから、日米の文化的な違い、考え方の背景にあるものなどをつづります。 著者紹介はこちら>>

第103回

世界基準のサービスを造りだすアメリカ社会

ホテルイメージ

The Cosmopolitan Of Las Vegas

先日、旅館の館内案内の英語翻訳依頼を受けたときに「貴重品は、お部屋に備え付けのセーフティーボックスにお預けください」という一文にでくわした。こういう言い方は危険なので、「貴重品の管理には、お部屋に備え付けのセーフティーボックスもご利用できます」に変えることを提案した。

海外で暮らす多くの人は自己責任という意識を持っている。たとえば、子供には「信号を守りなさい」とは教えない。代わりに「車に気をつけなさい」と教える。信号を守って渡っても、信号無視をしてきた車にひかれてしまってはもともこもない。ならば、最も肝心なことである「車にひかれないように気をつけろ」を教えるのだ。これが理由で、歩行者で信号を守るアメリカ人はまずいない。

同様に「セーフティーボックスを使いなさい」という言い方はしない。貴重品は自分で守らなければならないという意識を持っているので、それを乱すべきではないからだ。実際、アメリカのホテルのセーフティーボックスには「紛失の責任は負いかねる」と書いてある。基本は、本当に預けたのか否か、誰も証明できないことにある。

だが「ご利用ください」という言い方をしてしまえば、有事の際に、責任を追及される可能性がでてくる。「ご利用ください」と書いたあとに「紛失の責任は負いかねます」とは言うのは筋が通らないからだ。ここに、日米の考え方の差が現れている。

世界中の移民で構成されるアメリカでは、訴訟されないサービス体制を敷くことが不可欠だった。危険が発生しそうなところでは、全ての警告を用意する。レストランでは“食べ物アレルギー警告”、滑りやすい廊下では、“スリップ注意警告”。「表示が無かったから、こんな酷い目にあった!」と訴えられない体制を整えている。

次に、差別的な行為が起こらないようにした。レストランで、“窓側の景色の良い席”がある場合、「希望したが、ダメだと言われた。窓側には白人ばかりが座っていた」というような苦情が絶対にあがらないようにする。その席が予約されているのであれば“予約済”という札を見えるように置いておく。理由を一目瞭然にしておかないかぎり“ダメ”は許されない。近頃は、トランスジェンダー(性別越境者:日本語には正式名称は存在しない)の人権を守るため、男性トイレと女性トイレの使い分けができなくなってきている。今後、トイレは男女兼用の個室型に変えられていくことになる。また全ての身障者が、他の人々と同じように楽しめるようにバリアフリーを徹底し、盲導犬はレストランでも映画館でも飛行機の座席でも、どこにでも入れるようになっている。

国が違えば、文化風習、人々の考え方が違う。どこの国の人にも適したサービスなど有り得ない。だが、190カ国以上もの移民で構成された文化に育てられたサービスは、世界基準に最も近いものとなった。これから多くのインバウンドゲストを迎える日本は、この世界基準のサービスを導入することが不可欠となる。

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奥谷啓介氏

著者:奥谷 啓介

1960年東京都生まれ。ウエステインスタンフォード&プラザシンガポール、ハイアットリージェンシーサイパン等勤務の後、1994年よりニューヨークのプラザホテルに就職。2005年プラザホテルの閉館に伴い退職。現在はニューヨークにてホテルコンサルタントを、また2023年6月からは長年の夢であった小説家としてデビュー。ホテルマンの経験を活かし多方面で活躍中。

・奥谷 啓介オフィシャルサイト

<著者紹介>

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