アメリカン・エキスプレス
私が見たアメリカのホテル

アメリカの一流ホテルで日本人マネージャーとして10年間勤務した著者が、日々の仕事の中でふと目にしたシーンから、日米の文化的な違い、考え方の背景にあるものなどをつづります。 著者紹介はこちら>>

第122回

チップとサービスチャージの違い

ホテルイメージ

数年前、チップを止めサービスチャージに移行するレストランが出てニュースの話題となったことは記憶に新しい。昨今、さらに変化が起こり、知識をもっていないと、大きな損失につながりかねない事態が発生している。

チップは100%ウエイターとウエイトレスに渡されるものであり、法律上では、「チップを払うゲストが金額を決めることができ、また、どのウエイター(ウエイトレス)が受け取るかまでも決めることができるもの」となっている。だが、慣習として、18%から21%の額となり、“誰にあげたい”と指定する人はいない。

数年前、チップをサービスチャージに移行させたレストランの言い分は「チップはキッチンで働いているスタッフには分配されず、不公平が生じるので、サービスチャージにした」というものだった。サービスチャージの額はレストラン経営者が決めることができ、且つ、経常利益となる。つまりレストラン経営者はサービスチャージとして集めた額を自分を含めたスタッフ全員の給料を上げるものとして利用できることになる。サービスチャージはレストランで働く者全員の給与を増やすことになりはしたが、ウエイター&ウエイトレスの取り分を減らし離職を招くことにつながってしまった。

ウエイター&ウエイトレスがいなければ、レストランの経営は成り立たない。苦肉の策として生まれたのが、サービスチャージを取りながらもチップをも取るという手段だった。昨今、高級レストランの伝票を見れば、サービスチャージとして20%を取っていながら、その下にチップを書き込む欄がある。さらには、丁寧に“サジェスティッドチップ”(チップ額のご提案)として、18%ならば○○ドル、21%ならば○○ドル、という金額まで明記されている。事情を知らない人々はサービスチャージは目に入らず、ただ、チップの額を選ぶことに注意が行き、18%あるいは21%と明記されている額をチップ欄に書いてしまう。結果、18%の額を書いた人は、実は38%を支払うことになっている。(サービスチャージの%によって変わる)

有名レストランで働くウエイター&ウエイトレスの年収が1500万円を超えることは驚くことではない。だが、サービスチャージに移行されれば、こうした高額は取れなくなる。気の毒とは思うが、私個人としては、38%などという追加料金を払うのは行き過ぎと感じるので、サービスチャージが入っていたら、チップ欄には2%程度の金額しか書かないことにしている。私を日本人として見たウエイター&ウエイトレスは笑みを浮かべながら伝票をもってくる。そして、チップ欄に2%というあまりにも少額が書かれたのを見て愕然とする。だが、彼らは苦情を挙げる立場にはいない。

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私が見たアメリカのホテル バックナンバー
奥谷啓介氏

著者:奥谷 啓介

1960年東京都生まれ。ウエステインスタンフォード&プラザシンガポール、ハイアットリージェンシーサイパン等勤務の後、1994年よりニューヨークのプラザホテルに就職。2005年プラザホテルの閉館に伴い退職。現在はニューヨークにてホテルコンサルタントを、また2023年6月からは長年の夢であった小説家としてデビュー。ホテルマンの経験を活かし多方面で活躍中。

・奥谷 啓介オフィシャルサイト

<著者紹介>

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