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私が見たアメリカのホテル

アメリカの一流ホテルで日本人マネージャーとして10年間勤務した著者が、日々の仕事の中でふと目にしたシーンから、日米の文化的な違い、考え方の背景にあるものなどをつづります。 著者紹介はこちら>>

第169回

営業部に行きたがるホテルマネージャー

ホテルイメージ

アメリカのホテルで働くスタッフは、概して二つに分けることができる。サービスを施すサービスマンと自分の机を持っているデスクワークワーカー。前者はベルマン、ドアマン、ウエイター、ウエイトレスなど。後者はマネージャーとなり、デスクワークをしながらサービスマンの指揮をとる。サービスマンは職人気質となり、部署の移動はほとんどない。一方、マネージャーは自分で希望を出して、働きたい部署に向かって進んでいく。そして、多くのマネージャーは営業部に行きたがる。

人が来てくれなければホテルは儲からない。だから、営業部の責任は重たい。セールスマンの仕事はいろいろあるが、主なことの一つは、顧客をホテルに招待して、施設を見せて接待をすること。ホテルという華麗なイメージを保つ必要から、セールスマンもスーツを着て姿勢を保ち華麗なイメージ作り出す。さっそうとした姿で彼らが顧客をレストランに連れてきて、ごちそうを一緒に食べながら、楽しく会話を行う。このとき、レストランマネージャーはセールスマネージャーの指示を受けて動く。

そんな様子を見ていれば、自分も営業部で、こうした仕事をしてみたいと思うようになるのは当然。また、営業部で出世をすると、ホテル全体の売り上げを細かに見るようになり、どこをどうしたら経費を削り、利益を伸ばせるかという戦略がたてられるようになる。ホテルにとって最も大切なことは、利益を伸ばすことだから、営業部で働いた人が総支配人になるケースが多く、なおさら、営業部に行きたくなる理由がある。

半世紀前、ホテルが自営のレストランを運営していた時代があった。シェフがおいしい料理を出すことで、売り上げが伸びる。また、食材の計算や購買を行うことで、ホテル全体の数字にも精通することになる。よって、その時代は、シェフが総支配人なることも多かった。今、アメリカでは、大都市にある大型ホテルですら、ほとんどのレストランはテナントによって運営されている。もはや、シェフの存在は薄くなってしまった。

さらに、IT革命を経て、アメリカのホテルはレベニューマネジメントを導入した。ホテルによっては、レベニューマネージャーがいて、全体の数字を見ながら、ルーム料金をいくらにすれば最も儲かるか、また、どの団体に宴会場を貸せば、最も儲かるかという、利益のことだけを考えながら、日々、計算を続けている。インターネットの普及により、営業形態も変わり、以前のように多くのセールスマンが必要なくなった。当然、儲ける計算ができるレベニューマネージャーから総支配人が生まれるようになった。

アメリカのホテルで最も大切なことは最高の利益を生み出すこと。それに最も精通する人物がトップに立つのは当然のこと。昔から、アメリカのホテルの方針は変わらない。

2021.12.23公開

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奥谷啓介氏

著者:奥谷 啓介

1960年東京都生まれ。ウエステインスタンフォード&プラザシンガポール、ハイアットリージェンシーサイパン等勤務の後、1994年よりニューヨークのプラザホテルに就職。2005年プラザホテルの閉館に伴い退職。現在はニューヨークにてホテルコンサルタントを、また2023年6月からは長年の夢であった小説家としてデビュー。ホテルマンの経験を活かし多方面で活躍中。

・奥谷 啓介オフィシャルサイト

<著者紹介>

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