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私が見たアメリカのホテル

アメリカの一流ホテルで日本人マネージャーとして10年間勤務した著者が、日々の仕事の中でふと目にしたシーンから、日米の文化的な違い、考え方の背景にあるものなどをつづります。 著者紹介はこちら>>

第143回

公共の場から脱却するニューヨークのホテル

ホテルイメージ

ドアを通り抜けると、ドアマンが笑顔で挨拶してくれる。足を踏み入れたら、ふかふかの絨毯。見上げれば、天井から吊り下げられたきらびやかなシャンデリア。ホテルは、全ての人を豪華な雰囲気で包み込み、日常とは違う気分にさせてくれる夢の場所。そんな説明ができた時代が、ニューヨークにもあった。だが、この5年で、大方のホテルは方針を変えた。

“ホテルは誰でもが入れる公共の場だから、トイレに行きたくなったら、ホテルに行けば良い”などと案内をしたこともあった。だが、トイレに行ったら、ルームキーを差し込まないとドアが開かない。また、トイレの前にセキュリティーが立っていて、立ち入ろうとすると、「なんの用か?」と睨まれる。「トイレに行く」と言ったら、「宿泊ゲストか?」と聞かれ、「違う」と応えたら、首を横に振られる。このようなことが、多くのホテルで起こるようになった。

「宿泊ゲスト以外にも、ロビーにあるレストランを使う人がいるでしょう。その人達はルームキーを持っていない。トイレに行きたくなったら、どうすればいいのですか?」と聞くと、「セキュリテーに説明すれば、ドアを開けてくれるから問題ないです」と言われる。もはや、「トイレに行きたくなったら、ホテルにいけばいい」などとは言えなくなった。

ホテルはお金を儲ける場。その足を引っ張ることはやらないのが原則。トイレの利用者が減れば、掃除の回数を減らせる。トイレットペーパーの量も、使われる水の量も減る。それは経費削減となる。本来はそうしたかったのだが、以前は、ルームキーでトイレのドアも開けられるなどという技術がなかったので、できなかった。また、昔の多くのホテルには、バー&レストランが複数あったことが、ゲスト以外を館内に入れる理由となっていた。人が館内にいれば、利用客が増え、売上が上がるからだ。だが、昨今のニューヨークのホテルを見れば、レストラン&バーを運営しているところはとても少ない。4万件以上もの飲食店がひしめくマンハッタンで、人気レストランを運営することは至難。ホテルがレストランを運営すれば、赤字となり、経営の足を引っ張ることになる。こうして、レストラン&バーが少なくなったことが、館内に人を入れない理由を強くした。

多くの小~中規模の高級ホテルでは、中に入ろうとすると、宿泊ドアマンが、「ゲストの方ですか?」と尋ねるようになってきた。そこでお金を使う目的がなければ、気軽にホテルには入れない。大型ホテルでなければ、「ロビーで待ち合わせ」もできないホテルが多数派となった。もはやニューヨークの多くのホテルは、“誰もが使える便利な場所”として機能しなくなっている。想定外のトラブルに遭遇しないように気をつけていただきたい。

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奥谷啓介氏

著者:奥谷 啓介

1960年東京都生まれ。ウエステインスタンフォード&プラザシンガポール、ハイアットリージェンシーサイパン等勤務の後、1994年よりニューヨークのプラザホテルに就職。2005年プラザホテルの閉館に伴い退職。現在はニューヨークにてホテルコンサルタントを、また2023年6月からは長年の夢であった小説家としてデビュー。ホテルマンの経験を活かし多方面で活躍中。

・奥谷 啓介オフィシャルサイト

<著者紹介>

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なぜ「お客様は神様です」では一流と呼ばれないのか

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