アメリカン・エキスプレス
私が見たアメリカのホテル

アメリカの一流ホテルで日本人マネージャーとして10年間勤務した著者が、日々の仕事の中でふと目にしたシーンから、日米の文化的な違い、考え方の背景にあるものなどをつづります。 著者紹介はこちら>>

第108回

トランプ氏のホテルビジネス手腕

ホテルイメージ

Trump International Hotel & Tower

悲願の大統領の座を獲得したトランプ氏。今回は、彼の卓越したホテルビジネス手腕について説明してみたい。

コロンバス・サークルの角に立つブラックガラス張りの高層ビルが“トランプインターナショナルホテル&タワー”。もともとは1969年に建てられたオフィスビルだった。それを1995年から2年かけ、一度、骨組みだけの状態にしてから、自身のトレードマークであるブラックガラスで覆ったビルに変えた。セントラルパークの南西の角に位置し、東側の部屋からは公園が一望できる、ニューヨーカーもあこがれるホテルだ。

ビルの下半分はホテルで、上半分はコンドミニアム(アメリカの分譲マンションの呼び名)の構造になっている。他のコンドミニアム+ホテルと違う点は、全てのホテルの客室にまで個人オーナーが付いているということ。オーナーが利用しないときは、トランプオーガニゼーション(トランプ氏の会社)がホテルの客室として運営を請け負い、利益をだしてオーナーに分配する。飲料部門は、ミシュラン3スターの有名シェフ、ジャン・ジョルジュに委託することで、レストランでもルームサービスでも最高の料理を用意した。これにより、5スターホテルのランキング入りを果たしている。

コンドミニアムを買った人の特典は、部屋を掃除してもらいたいときに、ハウスキーパーを呼ぶことができたり、ホテルのフィットネス、プール、スパなどが利用できたり、また、24時間、ジャン・ジョルジュのルームサービスが利用できたりすること。また、コンドミニアムで働くスタッフとホテルで働くスタッフを兼用することで、毎月かかる管理費が安くなっていることも利点となる。宿泊ゲストにとって良いことは、ホテルルームのオーナーが管理費(スタッフの人件費や高熱費)を払っているので、本来このランクのホテルにつけられる料金よりも安く泊まれるということ。また、人が暮らす部屋なので、全ての部屋にキッチンが取り付けられていることなどが挙げられる。

トランプ氏は、ビルが完成した1997年、コンドミニアムとホテルの客室の売却で利益を上げた。その後、オーナーから客室を借りてホテル運営を行うことで、リスクを負わずに、永続的な利益を得ている。今に至っては、ホテルとコンドミニアムが共存する方式は流行りだが、1997年当時では珍しいことだった。しかも、ホテルの客室までをも全て売り、個別のオーナーを付けているホテルは、現在でも、ニューヨークでは類を見ない。また、プラザホテルを運営しているときにも見られた、“優れた専門家を雇って任せる”という手法も、飲食の全てをジャン・ジョルジュに一任しているところに見て取れる。

自社ブランドビルを建て、全ての部屋を売却して利益を確保。リスクフリーの立場となったところで、売った部屋を借りて行うホテル運営で永続的な利益を確保。最高の人材を起用し、5スターホテルにして、さらなるファンと投資家を確保。アメリカ広しと言えど、この手法でこれだけ自社ブランド展開を成功させている人はトランプ氏をおいて他にはいない。この卓越したビジネス手腕を彼は今後どう政治に活かすのか、これからが見ものだ。

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奥谷啓介氏

著者:奥谷 啓介

1960年東京都生まれ。ウエステインスタンフォード&プラザシンガポール、ハイアットリージェンシーサイパン等勤務の後、1994年よりニューヨークのプラザホテルに就職。2005年プラザホテルの閉館に伴い退職。現在はニューヨークにてホテルコンサルタントを、また2023年6月からは長年の夢であった小説家としてデビュー。ホテルマンの経験を活かし多方面で活躍中。

・奥谷 啓介オフィシャルサイト

<著者紹介>

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