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私が見たアメリカのホテル

アメリカの一流ホテルで日本人マネージャーとして10年間勤務した著者が、日々の仕事の中でふと目にしたシーンから、日米の文化的な違い、考え方の背景にあるものなどをつづります。 著者紹介はこちら>>

第41回

アメリカのホテルマンが持つ危機感と欲望

ホテルイメージ

The Westin Buckhead Atlanta

アメリカが世界一の経済大国としての地位を保ちつづけられる理由の一つは「熾烈な競争社会」にあると私は思っている。学生を見れば、小学生のときから慢性的な競争を強いられる。ニューヨークでは10歳から始まる統一テストがある。18歳になるまで毎年受けて、その都度よい成績を残しておかないと優秀な大学には入れない。多くの学生は15歳ころまでに、自分の適性を見出し、自分の能力を最大限に発揮できる職を決める。そして、その職に就くための勉強をしに大学に入る。大学はたくさんの専攻を持ち、それぞれの分野で企業戦士を育成する役割を担っている。その中で学生たちは競争を繰り広げる。

企業に入ってからも厳しい競争は続く。ホテルを例にとれば、景気が悪くなるとレイオフが始まり、順にパフォーマンスの悪いマネージャーから辞めさせられていく。午前10時に呼ばれて「仕事は本日まで。5時までに荷物をまとめて出て行ってくれ。」と言われて泣いた同僚達を私は見てきた。逆に、仕事ができれば短い時間で高額な給与を得ることができる。忙しく働けばそれだけ多くの額となるチップ、売上に乗じて3か月毎に入ってくる営業マンのインセンテイブ(ボーナス)など、多くのスタッフに能力給が用意されているからだ。油断したら待っている解雇と能力によって得られるお金が表裏一体となり、危機感とモチベーションを造りあげている。

だから、アメリカにはサラリーマンがさぼる場所がない。一服しながら雑誌や新聞を読む喫茶店、パチンコ屋、「サラリーマンを応援します」というバナーを掲げるDVD観賞個室などは存在しない。彼らにはそうしたところで時間をつぶす余裕もなければ気持ちもないのだ。

とあるホテルチェーンの社長が私に言ったことがある。「日本人はだらだらと働く国民性を持っているから、アメリカ人のように集中して働かせることは無理。また、テスト的に行った結果、能力給も日本人には向かないことが分かった」と。だが、私は言いたい。「中途半端なことをするから成果がでないのだ」と。アメリカのような解雇と能力給を持ってくれば、人は否応なしに危機感と欲望を持って動くようになる。その結果、生まれるものは高い生産性だ。そして、高い生産性は高い給与と労働時間の短縮をもたらす。

「笑うホテルマンと苦しむホテルマン」これが、私が見たアメリカと日本のホテルマンの差だった。その差を造りあげている大きな要因は生産性の違いだ。それは危機感と欲望を引き起こすシステムを持っているか否かの差と言ってもいいだろう。グローバル化によって、高い生産性を生むシステムを備えた世界中の企業と競争をする時がきた。日本の企業は生産性を上げるための思いきったシステムの導入を急がなければならないときを迎えている。

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奥谷啓介氏

著者:奥谷 啓介

1960年東京都生まれ。ウエステインスタンフォード&プラザシンガポール、ハイアットリージェンシーサイパン等勤務の後、1994年よりニューヨークのプラザホテルに就職。2005年プラザホテルの閉館に伴い退職。現在はニューヨークにてホテルコンサルタントを、また2023年6月からは長年の夢であった小説家としてデビュー。ホテルマンの経験を活かし多方面で活躍中。

・奥谷 啓介オフィシャルサイト

<著者紹介>

・超一流の働き方

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なぜ「お客様は神様です」では一流と呼ばれないのか

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