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私が見たアメリカのホテル

アメリカの一流ホテルで日本人マネージャーとして10年間勤務した著者が、日々の仕事の中でふと目にしたシーンから、日米の文化的な違い、考え方の背景にあるものなどをつづります。 著者紹介はこちら>>

第132回

クラッシックホテルを支える文化財への強い憧れ

ホテルイメージ

オランダの東インド会社に雇われた探検家、ヘンリー・ハドソンがニューヨークに来たのは1609年のこと。そこから、ヨーロッパ人によるニューヨークの植民地化が始まった。当時に描かれた地図を見ると、たくさんの建築物がダウンタウン地域に建てられている。しかし、現在、1600年~1700年代に建てられた建築物は全てと言っていいほど残されていない。その地にあるものは1900年代になってから建てられた高層ビルばかり。古い建物は壊され、新しいビルに置き換えられてしまった。

歴史のある建造物を破壊したことを後悔するようになったのは、1960年代後半になってからのこと。そこから、現在、残っている歴史的建造物を守るために、文化財指定、保護地区設定、ランドマーク化が始まった。もっとも顕著な例はソーホーに見られる。そこは1840年から1900年初頭に、工場として建てられた建造物が集まった場所。時代の流れとともに、使われなくなり、破棄されていた工場に、1960年頃から、芸術家たちが住みつきだした。誰も暮らさない場所のため、安い家賃で借りられたことが主な理由だった。本来、そこは居住区でないから住むことは許されないが、このときばかりは厳しい取り締まりは行われなかった。

だが、そこに存在する“キャストアイロンスタイル”で建築された建物が1973年に文化財指定されると、流れが変わる。1800年初頭にイギリスから入ってきたキャストアイロンスタイルの建物は富裕層の人々を魅了し「いくらお金を払っても、ソーホー内の文化財指定されたビルが欲しい」という欲求を沸き上がらせた。それにより、ソーホー内のビルと家賃は急騰。現在、ミッドタウンにあるドアマン、プール、サウナなどが備わった至れり尽くせりの高級マンションよりも、ソーホー内の“骨董品マンション”のほうが高く取引されるようになる。それは、“ジェントリフィケーション”と呼ばれ、文化財への強い憧れが生み出した現象だった。

ニューヨークを代表するプラザホテルもセントレジスも1900年初頭に建てられた建物で、ランドマーク(歴史建造物)に認定されている。近年建てられた超高級ホテルと比べれば、窓が小さくて部屋が暗い。プールもなければ、サウナもない。名前にひかれて泊まった日本人の中には「こんなホテルとは思わなかった」と落胆する人も少なくない。だが、アメリカ人にとって、文化財指定されているホテルの人気は不滅と言っていいもの。快適性よりもなによりも、文化遺産となっている建物に泊まりたいという強い欲求があるからだ。歴史と伝統をもった高級ホテルはこの特権を100%打ち出して営業を行う。それが富裕層を引きつける最も効果的なものなのだから当然のこととなる。

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奥谷啓介氏

著者:奥谷 啓介

1960年東京都生まれ。ウエステインスタンフォード&プラザシンガポール、ハイアットリージェンシーサイパン等勤務の後、1994年よりニューヨークのプラザホテルに就職。2005年プラザホテルの閉館に伴い退職。現在はニューヨークにてホテルコンサルタントを、また2023年6月からは長年の夢であった小説家としてデビュー。ホテルマンの経験を活かし多方面で活躍中。

・奥谷 啓介オフィシャルサイト

<著者紹介>

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