アメリカン・エキスプレス
私が見たアメリカのホテル

アメリカの一流ホテルで日本人マネージャーとして10年間勤務した著者が、日々の仕事の中でふと目にしたシーンから、日米の文化的な違い、考え方の背景にあるものなどをつづります。 著者紹介はこちら>>

第135回

アメリカ組織の労働形態

ホテルイメージ

私が働いたニューヨークのプラザホテルには、当時、レストランが3軒、宴会場は17室あった。宴会場とレストランがあれば、そこを販売するセールスマンが必要になるので、宴会場セールスマンが4人、宴会手配マネージャーが4人、そして、アシスタントが3名ほどいた。計11名の大きな労働賃金は、年間予算に組まれるので、額が変わる不安定なものにしておくことはできない。よって、残業代など、額が変動するものは減らさなくてはならない。

これを実行するため、宴会場セールスマンと宴会手配マネージャーは管理職となり、どれほど長く働こうとも残業代を得られなくする。残業代をつけられるスタッフはアシスタントの3名だけ。ここでも、アシスタントに残業をさせないよう、マネージャーは自分で行える仕事は極力自分で行うようにする。また、マネージャーに与えられる仕事は、基本的に、誰とも相談を必要とせず、自分の考えだけで行っていけるものにしてある。よって、自分の能力に沿って仕事量を調整し、成果を出すことだけを目標としている。基本的に、上司から「これをいついつまでにやること」などと与えられるものはとても少ない。

このシステムの中で、てきぱきと働ける人は、成果をあげて出世していく。一方、成果が会社の期待に達しない人は「今日の午後5時であなたの仕事は終わりになります」という、”レイオフ”となることもある。そうならないよう、彼らは自分の能力を最大限に使って高い成果を出すことに精を出す。こうした状況下では、しぶしぶ働くことはなく、獲物を追いかけるごとく、時間は関係なく、必要と思えば、自分の意思において行うようになる。

また、有給休暇は、勤続年数によって異なるが、平均して、最初の1年は無しで、翌年から5日間、翌々年からは10日間を得ることができる。有給休暇を消化しない場合、2年まで繰越しができるが、人事部から警告が入り、「使わないと、会社が買い上げなくてはならなくなるので、迷惑がかかる。必ず使ってください」と言われる。こうした事態を防ぐため、各部署は、夏に、来年度の有給休暇利用スケジュールを提出させ、複数の人が同時期に休むことのないように相談をしながら、決めてしまう。皆、そのスケジュールに向かって、仕事量を調整し、10日間の休暇を取っても、成績が悪くなるなどということのないように動く。こうしたシステムだから、労働効率が良く、短い時間で仕事をこなせ、有給休暇も取れるようになっている。

近頃のニュースでは、有給休暇を増やそうとしたり、労働時間を短くしようとしたりすることに、日本企業が努力している様子が伺える。だが、人と相談する時間なしに、自分の判断だけで仕事を押し進められるシステムにしない限り、労働時間は変わらない。変えずに、働く時間を短くすれば、無理が生じ、益々人々を苦しめるだけとなる。弊害を引き起こさず、労働時間を少なくするためには、このアメリカの働き方を導入すること以外に無いように、私には思える。

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奥谷啓介氏

著者:奥谷 啓介

1960年東京都生まれ。ウエステインスタンフォード&プラザシンガポール、ハイアットリージェンシーサイパン等勤務の後、1994年よりニューヨークのプラザホテルに就職。2005年プラザホテルの閉館に伴い退職。現在はニューヨークにてホテルコンサルタントを、また2023年6月からは長年の夢であった小説家としてデビュー。ホテルマンの経験を活かし多方面で活躍中。

・奥谷 啓介オフィシャルサイト

<著者紹介>

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