アメリカン・エキスプレス
私が見たアメリカのホテル

アメリカの一流ホテルで日本人マネージャーとして10年間勤務した著者が、日々の仕事の中でふと目にしたシーンから、日米の文化的な違い、考え方の背景にあるものなどをつづります。 著者紹介はこちら>>

第141回

ホテルブランドの変遷

ホテルイメージ

アメリカ初のホテル運営会社(ホテルマネージメントカンパニー)として、1930年にウエスティンホテルズ(当時の名称はウエスタンホテルズ)は誕生した。その時の創始者らの目的は、世界大恐慌により瀕死の状態となった既存のホテルを救済することにあった。だから、ウエスティンという名称をホテルにつけることはなかった。シアトルのオリンピックホテル、サンフランシスコのセントフランシス、ニューヨークのプラザホテル。どれも個々の名前を持っていたので、ウエステインの名称はつけなかった。だが、時を経て、ヒルトンやシェラトンというライバル会社が出現してきたとき、ウエスティンホテルズも、“ウエスティン”をホテル名にしなければならないときを迎えた。

ヒルトンホテルやシェラトンホテルがホテル数を増やすにつれて、知名度と信頼度は高まり、人々は、その2大ホテルチェーンを好んで利用するようになった。一方、サンフランシスコのセントフランシスやニューヨークのプラザホテルなど、どんなに名門ホテルを運営していようとも、ウエスティンという名がついていないため、知名度は低くく、ウエスティンホテルズが運営する他のホテルに泊まろうとする流れは生まれなかった。

セントフランシスの前にウエスティンをつけ、正式名をウエスティン・セントフランシスとしたり、新しく建てるホテルを、ウエスティンホテルという名称にしたりして、彼らがブランドとしての知名度を伸ばしだしたのは1980年になってからのことだった。この時代は、どのホテルチェーンも、自社ブランド名を浸透させるために懸命になって働いた。

それから30有余年を経た現在、巨大ホテルチェーンの傘下にたくさんのブランドが存在する時代となっている。例えば、マリオットホテルグループの中には、リッツカールトン、フェアフィールドイン、ACホテル、レジデンスイン、エデイション、ルネッサンス、コートヤードなど、数えきれないほどのブランドが入っている。1990年後期から起きた、ホテルチェーンごと買収する流れの中では、もはやブランド名を統一することに意味はなく、名を聞いただけで、そのホテルのイメージが湧く状態を保つことのほうが大切になっていた。ブランド名を変えてしまえば、そのブランドについていた顧客も失うことになる。それでは、ホテルチェーンごと買収した意味がない。大切なのは、特典が増えるプログラムを、マリオット傘下のどのホテルでも利用できるようにすることだけだった。

現在、マリオットホテルグループが、ウエスティンやシェラトンを含むスターウッドホテルグループを買収し、さらにブランド数を増やした巨大ホテルグループへと膨れあがっている。わずか30有余年で、米国ホテルチェーンは、その在り方にめまぐるしい変化を遂げてきた。それは強者が弱者を飲み込むという資本主義の意思に基づいたものだった。

だが、今、ニューヨークのホテル事情を見ると、ホテルチェーンに入らない個性の強い独立経営のホテルの活躍が目立つようになってきている。そうしたホテルを支えるファンも育ってきた。これからは、資本力より、個性あるホテルが勝つ時代へと向かう兆しが見えている。

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奥谷啓介氏

著者:奥谷 啓介

1960年東京都生まれ。ウエステインスタンフォード&プラザシンガポール、ハイアットリージェンシーサイパン等勤務の後、1994年よりニューヨークのプラザホテルに就職。2005年プラザホテルの閉館に伴い退職。現在はニューヨークにてホテルコンサルタントを、また2023年6月からは長年の夢であった小説家としてデビュー。ホテルマンの経験を活かし多方面で活躍中。

・奥谷 啓介オフィシャルサイト

<著者紹介>

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