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私が見たアメリカのホテル

アメリカの一流ホテルで日本人マネージャーとして10年間勤務した著者が、日々の仕事の中でふと目にしたシーンから、日米の文化的な違い、考え方の背景にあるものなどをつづります。 著者紹介はこちら>>

第158回

世界最大の打撃を受けたニューヨークの行方

ホテルイメージ

ニューヨークはコロナにより世界最大の打撃を受けた街。1600年代初頭、アメリカ大陸にオランダ人が入植し始めた当時から、ニューヨークはアメリカの中心としての役割を担ってきた。ビジネスの中心として人々が集まったことで、エンターテイメント産業を中心として観光産業が躍進。たかだか長さ24キロ、幅4キロの小さな島に、2万7千軒ものレストラン、250軒以上のホテル、40軒以上のミュージカル劇場、32軒のミュージアムなどが集まり、人々をもてなす街へと成長した。だが、コロナにより人々の往来が途絶えた今、これらのほとんどは休業状態となり、多くは倒産へと追いやられてしまった。

しかし、ここにきて、アメリカ人の楽観的な国民性が早くも動きだしている。ワクチン接種が始まったことで、夏前にはコロナは収束に向かうという予想の下、現在、営業開始に向けて、水面下で動きが始まった。ミュージカル劇場は6月に再オープンを宣伝し、それにあわせ、倒産に至っていないホテルは4月~6月にかけて再オープンをアナウンスしだした。

こうしたニューヨークの娯楽産業は投資物件だから、投資家(企業)は銀行からローンを組んで運営を行っている。利益がでなければ、ローン返済に行き詰り倒産。オーナーは自己を守るために破産手続きを行い、物件から離れる。そして、新しい投資家が不良債権化した物件を安値で買いあげ、リニューアルオープンを始める。

ただ、ホテルに関しては、単純にリニューアルオープンにならない物件も多くある。オフィスビルやレンタルアパート、あるいな分譲マンションにしてしまえば、次回、このような惨事が起きたときでも、ダメージは少ない。レンタル契約であれば、長期に渡って家賃が入る。分譲マンションにすれば、売り切って利益を得て終わりにすることができる。

不景気や惨事に最も弱いのがホテル産業ということが露骨になった今、こうした動きが加速するのは当然のこと。しかし、一方で、景気が良くなれば、ホテルビジネスのギャンブル性にひかれ、余裕がある投資家と企業は必ずホテルに投資を行うということは歴史が証明している。レンタルオフィスやレンタルアパートと違い、ホテルの料金は短期間に2倍にも3倍にもなる。世界中の人々に利用されて、話題となるかもしれないと想像すれば、オーナーの心は夢で膨らむ。他には類を見ない特殊な夢に溢れたビジネスがホテルなのだ。

コロナ以後のマンハッタンのホテルの動向は、しばらく谷に向かい、あるところから、山に向かう。過去の100年の歴史が示してきた通りの動きを繰り返すことになるに違いない。

2021.2.2公開

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奥谷啓介氏

著者:奥谷 啓介

1960年東京都生まれ。ウエステインスタンフォード&プラザシンガポール、ハイアットリージェンシーサイパン等勤務の後、1994年よりニューヨークのプラザホテルに就職。2005年プラザホテルの閉館に伴い退職。現在はニューヨークにてホテルコンサルタントを、また2023年6月からは長年の夢であった小説家としてデビュー。ホテルマンの経験を活かし多方面で活躍中。

・奥谷 啓介オフィシャルサイト

<著者紹介>

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