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私が見たアメリカのホテル

アメリカの一流ホテルで日本人マネージャーとして10年間勤務した著者が、日々の仕事の中でふと目にしたシーンから、日米の文化的な違い、考え方の背景にあるものなどをつづります。 著者紹介はこちら>>

第101回

プラザホテルとドナルド・トランプ氏

ホテルイメージ

The Plaza

今、世界で最も話題の人といえば、ドナルド・トランプ氏と言っても過言でないだろう。私がプラザホテルで働き始めた1994年当初、プラザホテルのオーナーはトランプ氏だった。プラザホテルは、トランプ氏に持たれていた時代がもっとも幸せな時代だったと私は思う。

プラザホテルのオーナーは頻繁に代わった。1907年にオープンさせた初代オーナーは、1943年にヒルトンホテルの創始者コンラッド・ヒルトン氏にプラザホテルを売却。10年後、ヒルトン氏は中堅ホテル会社に売却。1957年には、投資家がオーナーに。そして、1975年、ウエスティンホテルズが購入する。

「初めてプラザに行ったのは7歳くらいのころだったと思う。日曜日に両親につれられてパームコートにランチを食べに行ったんだ」。トランプ氏は、後に「インサイド・ザ・プラザ」を出版したジャーナリストの取材にそう応えている。その頃から、プラザホテルは憧れのひとつだったという。1975年にトランプ氏はウエスティンホテルズと交渉を始める。当時、ウエスティンホテルズが購入した金額は25ミリオンダラー。トランプ氏はその2倍を出してもいいと言ったという。だが、ウエスティンホテルズはフラッグシップのプラザホテルを手放そうとはしなかった。

チャンスが訪れたのは、それから13年後のこと。ウエスティンホテルズが、バブル経済の勢いにのった青木建設に買収されたときだった。1988年、念願のプラザホテルを約400ミリオンダラーで手中にすると、さらに巨額のお金をリノベーションにつぎ込んだ。リノベーションを終えたプラザは、オープン当初のように、いたるところに金箔が塗りこまれ輝いていた。「ホームアローン2」の映画撮影が行われたのもその頃だった。映画の中で、トランプ氏がカルキン少年と、ふかふかの絨毯がしかれたプラザホテルのロビーで遭遇するシーンがある。

1991年初頭に湾岸戦争が勃発。景気悪化にともない、同年4月「トランプ帝国は危機に瀕している」とマスコミが公表。ほぼ同時に、トランプ氏はプラザホテルの部屋を分譲マンションにして売り出すと発表した。全てがマンションとして売られれば、700ミリオンダラーが入るという計算が成り立っていたという。だが、メデイアは反対意見をだし、市民もプラザを守ろうとした。トランプ氏は、結局、プラザホテルをホテルのまま売りにだし、オーナーの座を退いた。強引に行えば、2004年に購入したオーナーが行ったように、分譲マンションにできただろう。だが、トランプ氏はプラザホテルをホテルのまま残そうとした。子供の頃からもち続けた愛情がそれを許さなかったのだろう。

その後間もなく、トランプ氏は浮上する。そのとき、我々はよく言い合った。「あと半年もちこたえられたなら、まだプラザはトランプ氏のものだっただろう。惜しかった!」と。今になって思えばさらに惜しい。そうであったならば、今でも全てがホテルのまま輝いていたに違いないからだ。

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奥谷啓介氏

著者:奥谷 啓介

1960年東京都生まれ。ウエステインスタンフォード&プラザシンガポール、ハイアットリージェンシーサイパン等勤務の後、1994年よりニューヨークのプラザホテルに就職。2005年プラザホテルの閉館に伴い退職。現在はニューヨークにてホテルコンサルタントを、また2023年6月からは長年の夢であった小説家としてデビュー。ホテルマンの経験を活かし多方面で活躍中。

・奥谷 啓介オフィシャルサイト

<著者紹介>

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