私が見たアメリカのホテル

アメリカの一流ホテルで日本人マネージャーとして10年間勤務した著者が、日々の仕事の中でふと目にしたシーンから、日米の文化的な違い、考え方の背景にあるものなどをつづります。 著者紹介はこちら>>

第190回

ニューヨークのホテルを支える市の政策

ホテルイメージ

ニューヨークでは、コロナで定着したリモートワークの体制が崩れることはない。コロナが収束したからと言って、以前のように、人々がオフィスに毎日通う日々は戻らない。コロナ以前から、世の中はリモートワークへと向かいつつあり、それが加速されただけに過ぎなかったからだ。家庭の時間を大切にする多くのアメリカ人にとって、オフィスと家の往復に費やす時間は無駄以外のなにものでもなかった。

以前のように、出張に来て、顔と顔をあわせて交渉をしていたことが減り、その分、オンラインミーティングが増えた。マンハッタンにあるホテルの7割がビジネスマンで埋まっていたのはもはや過去のこと。一方で、観光客は増加の一途をたどっている。30年前、ニューヨークのホテルに泊まっていたアジア人の大半は日本人だったが、今は、中国、シンガポール、韓国、インド、インドネシア、フィリピン、ベトナムなど多くの国々から観光客が来るようになった。

ニューヨークは政策としてマンハッタン全体をテーマパークのような存在にすることを推し進めてきた。この小さな島の中には、魚河岸も問屋も工場もいらない。ただ、人々がそうした場所を訪ねてみたいと思わせる跡を残し、マンハッタン以外の場所に移動させてきた。現在、人気の観光地となっているフルトンマーケットはもと魚河岸、ミートパッキングエリアはもとと殺所、チェルシーマーケットはもとナビスコの工場。全ては観光客を増やし、世界一の観光都市とするために採られた策。観光客には、遊びに来る人々だけでなく、コンベンションに参加するビジネス客も含まれている。結果、以前にも増して、ホテルは不足状態にあり、宿泊料金は上昇を続けている。中でも、コンベンションに参加するゲストを取り込むことができれば、食事と宴会場の利用で大きな収益を上げることができる。

ホテルはニューヨーク市の政策によって支えられていると言っても過言ではない。ただ、政策は今日明日に効果を発揮するものでもない。長期展望の下に作られ、開花するまでに時間がかかる。コロナ禍の後に、ホテルがこれだけ好成績を出しているのは政策の賜物と言えよう。私には、日本全体がマンハッタンの拡大版にも見える。日本列島の至るところに存在する歴史的文化遺産と無形文化財、そして、四季が作り出す美しい風景。コロナにより、減少した日本のホテルマンだが、政策次第では、将来、日本が世界一の観光立国となり、ホテルが日本の一大主流産業の一つとなることは夢ではない。

2023.9.29公開

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奥谷啓介氏

著者:奥谷 啓介

1960年東京都生まれ。ウエステインスタンフォード&プラザシンガポール、ハイアットリージェンシーサイパン等勤務の後、1994年よりニューヨークのプラザホテルに就職。2005年プラザホテルの閉館に伴い退職。現在はニューヨークにてホテルコンサルタントを、また2023年6月からは長年の夢であった小説家としてデビュー。ホテルマンの経験を活かし多方面で活躍中。

・奥谷 啓介オフィシャルサイト

<著者紹介>

・超一流の働き方

ビートルズ・ケネディ大統領・サウジの大富豪……全世界のVIPらに愛され、マネージャーとして超一流の世界で学んだ世界標準の「サービス」「心の持ち方」「自分の活かし方」「生き方」を公開!

超一流の働き方

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なぜ「お客様は神様です」では一流と呼ばれないのか

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「プラザ」元マネージャー直伝、一流ホテルで恥をかかない滞在術。この一冊があなたのアメリカ滞在を変える!レジャーはもちろん、ビジネスにも役立つ情報の集積。国際人の責任として、海外に行く前にその国の常識を学ぼう。

海外旅行が変わる ホテルの常識

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世界最高のホテル プラザでの10年間

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