私が見たアメリカのホテル

アメリカの一流ホテルで日本人マネージャーとして10年間勤務した著者が、日々の仕事の中でふと目にしたシーンから、日米の文化的な違い、考え方の背景にあるものなどをつづります。 著者紹介はこちら>>

第119回

進化するアメリカのホスピタリティー

ホテルイメージ

数十年前、日本のホテルを利用したアメリカ人たちは日本のサービスを「痒いところに手が届く」と形容した。日本文化が育てた、お客様を何よりも大切に思う、“おもてなし”の精神がなせる業だった。だが、昨今、おもてなしと声を高らかにするのは日本人であり、アメリカ人ではない。その理由は、アメリカのサービスが進化して、日本のサービスが追い付き追い越される結果となったからだ。

おもてなしという素晴らしいサービス精神を育んだ日本文化の中には、サービスの進化を阻む要素も含んでいる。それはほぼ単一民族によって造りあげられた国民性という厄介な存在。例えば、日本には厳しい年功序列がある。上司と部下の関係が存在し、部下は上司の指示に従って動く。それが迅速なサービスを阻んでしまうことがしばしば起こる。

「ボイラーの音がうるさいので、部屋を換えてくれませんか?」という依頼に、アメリカのホテルは、「お部屋の交換をさせていただきます」という返答をその場で行う。ゲストを不快なままにしておくことはできないから、「できません」という返事は100%ない。ならば、1秒でも早く「取り替えます」と返事をしたほうがゲストのためになるという理論が成立するからだ。

一昔前は、アメリカでも上司の許可を取るという行動がとられていたから、「少々お待ちください」と、待たせることが常だった。だが、「理論的に考えて、“こうしたほうが良い”ということは、個人の判断で決めてよい」という権限(エンパワーメント)を与えることで、サービスを進化させた。これは、正しいことは即行うべきという“論理的思考に基づいた精神”。この他、弱者を助けなければならない“宗教的教えに基づいた精神”、マイノリティー(少数派)の権利を無視してはならないという“法律に基づいた精神”、リピーターを育てるためにサプライズを用意したりという“投資の精神”などもある。

だが、精神だけあっても、サービスはよくならない。そうした精神を欠いたスタッフもいれば、働く意欲のないスタッフもいるからだ。だから、アメリカは、いくつもの精神をシステム化してサービスに反映させる方法を取ってきた。その進化は今も止まることなく続いている。

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奥谷啓介氏

著者:奥谷 啓介

1960年東京都生まれ。ウエステインスタンフォード&プラザシンガポール、ハイアットリージェンシーサイパン等勤務の後、1994年よりニューヨークのプラザホテルに就職。2005年プラザホテルの閉館に伴い退職。現在はニューヨークにてホテルコンサルタントを、また2023年6月からは長年の夢であった小説家としてデビュー。ホテルマンの経験を活かし多方面で活躍中。

・奥谷 啓介オフィシャルサイト

<著者紹介>

・超一流の働き方

ビートルズ・ケネディ大統領・サウジの大富豪……全世界のVIPらに愛され、マネージャーとして超一流の世界で学んだ世界標準の「サービス」「心の持ち方」「自分の活かし方」「生き方」を公開!

超一流の働き方

・なぜ「お客様は神様です」では一流と呼ばれないのか

「アメリカのホテルで1万円儲かることが、日本のホテルでは3,780円しか儲からない」といわれるほど世界最低レベルの生産性。働けど働けど儲からないワーキングスタイルに苦しめられるのはもうやめよう。

なぜ「お客様は神様です」では一流と呼ばれないのか

・はえくんの冒険(原作:アントニオ猪木、著:ケニー奥谷、絵:八雲)

ブラジルの中央、マッドグロッソにある牧場に生まれた「はえくん」の物語。原作のアントニオ猪木氏が自身の体験をもとに長年あたためてきた企画が、奥谷氏の手により絵本になりました。大人が読んでも楽しめる愛と友情の物語です。

はえくんの冒険

・サービス発展途上国日本 - 「お客様は神様です」の勘違いが、日本を駄目にする

サービスを向上させるにはスタッフを幸せにすることが一番の近道。アメリカの超一流ホテルでの経験から綴る業界改革論。

サービス発展途上国日本 - 「お客様は神様です」の勘違いが、日本を駄目にする

・海外旅行が変わる ホテルの常識

「プラザ」元マネージャー直伝、一流ホテルで恥をかかない滞在術。この一冊があなたのアメリカ滞在を変える!レジャーはもちろん、ビジネスにも役立つ情報の集積。国際人の責任として、海外に行く前にその国の常識を学ぼう。

海外旅行が変わる ホテルの常識

・世界最高のホテル プラザでの10年間

アメリカのホテルはなぜこんなに不愉快なのか!?「日本人利用客」VS「アメリカ人従業員」。果てしないトラブルの非は、どちらにある?敏腕マネージャーがフロント・デスクの内側からみた「日米比較文化論」。

世界最高のホテル プラザでの10年間

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