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私が見たアメリカのホテル

アメリカの一流ホテルで日本人マネージャーとして10年間勤務した著者が、日々の仕事の中でふと目にしたシーンから、日米の文化的な違い、考え方の背景にあるものなどをつづります。 著者紹介はこちら>>

第180回

総支配人よりも強い力を持つマネージャー

ホテルイメージ

1997年になると、アメリカのホテルは一斉にレベニューマネージメントを導入した。それは、日ごとに、あるいは、カテゴリーごとに、いくらにしたら最も儲かるかという計算をして料金を変えていくシステム。同じカテゴリーの部屋に同じ日に泊まるにもかかわらず、予約をしたタイミングの差で料金が変わってしまう。今日では当たり前のことになったが、導入された当時は市場に大きなショックを与えたものだった。

特に驚きだったのは、団体料金のほうが個人で予約する料金よりも高いという現象を生むことになったこと。それまでは団体割引というのが当たり前だったが、レベニューマネージメントにより、それが消えた。理由は、アメリカのように長期スケジュールを立てて進む国では、団体は数年前から入ることが多い。今年よりも来年、来年よりも再来年のほうが高い利益を上げなければならないから、来年は今年の10%アップを予算にするなどと決められている。そうした予算は多くの場合、達成されないほど高いことが多い。前もって、低めの予算をたてることは許されないからだ。

だが、当日が近づいてくると、その値段では予約が集まらないので、安くなっていることが多くある。ホテルにとっては、高い値段の団体が入ってくるので助かるが、予約をした側としたら、「なんで団体料金が個人で泊まる予約より高いのか?団体割引どうなっているのか?」という苦情を持つ。真の応えは「レベニューマネージメントが導入されてから、もはや団体割引という概念は無い」というものだが、反感を抑えるため、「団体には、予め鍵を用意したり、部屋を同じ階に確保したり、手間がかかるので、その分値段が高くなっています」などと苦しい言い訳を使っていた。だが、レベニューマネージメントが理解された今日では「飛行機の座席と同じく、時間とともに値段が変わるのが当たり前」となり、言い訳をする必要もない。

料金の決定は、日夜、状況を見て計算をするレベニューマネージャーによって行われる。その計算が少しでも狂えば、ホテルは最大の利益を生むチャンスを逃すことになる。従って、レベニューマネージャーの役割ほど大切なものはない。

昔は、総支配人の知り合いが泊まるから、特別料金を出すなどということが普通だったが、それ以後はレベニューマネージャーの決定に従わなければならなくなった。ホテルチェーンでは、複数のホテルのレベニュー計算をひとりのレベニューマネージャーに任せている。そうしたレベニューマネージャーは各ホテルの総支配人よりも大切なポジションにいるので、力もあれば収入も大きい。

2022.11.29公開

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奥谷啓介氏

著者:奥谷 啓介

1960年東京都生まれ。ウエステインスタンフォード&プラザシンガポール、ハイアットリージェンシーサイパン等勤務の後、1994年よりニューヨークのプラザホテルに就職。2005年プラザホテルの閉館に伴い退職。現在はニューヨークにてホテルコンサルタントを、また2023年6月からは長年の夢であった小説家としてデビュー。ホテルマンの経験を活かし多方面で活躍中。

・奥谷 啓介オフィシャルサイト

<著者紹介>

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