私が見たアメリカのホテル

アメリカの一流ホテルで日本人マネージャーとして10年間勤務した著者が、日々の仕事の中でふと目にしたシーンから、日米の文化的な違い、考え方の背景にあるものなどをつづります。 著者紹介はこちら>>

第63回

プラザ合意の生き証人

ホテルイメージ

The Setai Fifth Avenue(Langham Place Fifth Avenue)

次期出版予定の本を書くにあたり、最初に出した「世界最高のホテル プラザでの10年間」に目を通してみた。出だしの章で、「プラザ合意の生き証人」として、竹下元首相と出会ったときのことを書いたのを思い出す。お目にかかったのは1995年。もう18年も前のことだというのに、つい先日のことのようだ。

私がプラザに赴任したのが1994年の12月。それから、竹下元首相に出会うまで、「プラザ合意はどこで行われたのですか?」という多くの人々からの質問に応えることができなかった。

最初に私が座ったデスクの隣には、“プラザヒストリアン”と異名をとる、カートゲイジという男がいた。カートは作家で、フィクションも出版していたがプラザの歴史をつづった本も出していた。

机には、いつもプラザの文献がたくさん積まれていた。彼の仕事の半分は、それらを使って記事を書き、プラザのPRをすること。彼の著書「At the Plaza」の索引には、「Plaza Accord(プラザ合意)」が1985年に行われたという記録がある。だが、どこの部屋でそのミーテイングが行われたかまでは書かれていない。カートに聞いても「わからない」だった。

竹下元首相が ”プラザ合意10周年記念” で、プラザを訪問されたときに、私は尋ねてみた。すると「白と金の間」とおっしゃる。私は一瞬戸惑う。そんな日本語名の部屋などない。だが、すぐに分かった。「White and Goldだ!」それから、「あのときに泊まった部屋がもう一度見たい」との依頼を受け、合意が行われる前日に夜通し話し会いを行ったという思い出の部屋、“フランコロイドライドスイート”をご案内させていただいた。

その後、NHKの「戦後の50年、その時日本は」という1年間の連続ドキュメンタリー番組の取材がきた。その最終章に「プラザ合意」が放送されることになっていた。最終章にもってきた理由を聞くと、「戦後の50年間で、プラザ合意ほど日本に大きなインパクトを与えたものはなかったから」という。

その合意が日本にバブル経済を引き起こし、ホテル業界だけでも、インターコンチネンタルホテルズやウエスティンホテルズの日本企業による買収と、それに続く悲劇的結末を見ることができる。それだけでも、いかに日本を揺るがす一大事だったかがわかる。

ときどき、若い人から「プラザ合意って、社会科の教科書に載っていましたよ」と聞くことがある。いつかゆっくりと、“プラザ合意の生き証人”との出会いをお話しする機会があればいいと思っている。

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奥谷啓介氏

著者:奥谷 啓介

1960年東京都生まれ。ウエステインスタンフォード&プラザシンガポール、ハイアットリージェンシーサイパン等勤務の後、1994年よりニューヨークのプラザホテルに就職。2005年プラザホテルの閉館に伴い退職。現在はニューヨークにてホテルコンサルタントを、また2023年6月からは長年の夢であった小説家としてデビュー。ホテルマンの経験を活かし多方面で活躍中。

・奥谷 啓介オフィシャルサイト

<著者紹介>

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超一流の働き方

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なぜ「お客様は神様です」では一流と呼ばれないのか

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「プラザ」元マネージャー直伝、一流ホテルで恥をかかない滞在術。この一冊があなたのアメリカ滞在を変える!レジャーはもちろん、ビジネスにも役立つ情報の集積。国際人の責任として、海外に行く前にその国の常識を学ぼう。

海外旅行が変わる ホテルの常識

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アメリカのホテルはなぜこんなに不愉快なのか!?「日本人利用客」VS「アメリカ人従業員」。果てしないトラブルの非は、どちらにある?敏腕マネージャーがフロント・デスクの内側からみた「日米比較文化論」。

世界最高のホテル プラザでの10年間

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