私が見たアメリカのホテル

アメリカの一流ホテルで日本人マネージャーとして10年間勤務した著者が、日々の仕事の中でふと目にしたシーンから、日米の文化的な違い、考え方の背景にあるものなどをつづります。 著者紹介はこちら>>

第147回

人びとを魅了する歴史を有するホテル

ホテルイメージ

マンハッタンに、ミートパッキングデイストリクトと呼ばれる地区がある。その昔、屠殺所が250箇所あり、肉を詰めて出荷する問屋地帯だった。20年前は、肉の腐った匂いが立ち込め、近づきたくない場所だったが、保護地区に認定されたころから変貌を遂げる。その中にあるビルが富裕層によって買い占められ、高値で取引されるようになった。1990年後半になると、ビルのオーナーたちは新しい地域開発プランをたて、レストラン、バー、ブテイックなどをオープンさせた。現在、マンハッタン有数の観光スポットへと様変わりしている。

さらに時代を遡ること100年、まだ船が交通機関の全盛だった頃には、マンハッタンの至るところに波止場があった。当初、ミートパッキングデイストリクトは様々な商業施設と市場を含んだ波止場だった。1908年オープンのジェーンホテルは、そこに寄港する人びとの宿泊施設として使われていた。1912年4月15日、イギリスのサザンプトンを出てマンハッタンに向かっていた豪華客船タイタニックが沈没。救助した人びとを乗せた船は、その波止場に寄港。タイタニックの難を免れた人びとはジェーンホテルに宿泊した。その後、1960年代になり、飛行機が輸送機関の主流となると、波止場は衰退し、この地も活気を失なっていく。そして、1980年代にはいると、いかがわしいショップが増え、マフィアがはびこる危険地区となっていった。

私はときおり、ジェーンホテルに行き、レストランに置かれているタイタニック号を眺めながら、そのときの様子を思い浮かべる。ホテル内部は100年前からの佇まいを見せている。きっと、タイタニックから来た人びとも、この内装を見たのだろう。昨今、ミートパッキングデイストリクトの開発は更に進み、マンハッタンNo1の人気スポットとなる勢いを見せる。半年前から、ジェーンホテルも外壁の修復工事に入った。廃れた時代を経て残ったホテルは、最高の観光地にあるホテルとして、脚光を浴びることになる。

先日、たまたまジェーンホテルに宿泊した人に会う機会があった。「タイタニック号ゆかりのホテルに泊まった感想はいかがですか?」と尋ねたところ、「そんな歴史があったのなら、泊まる前に知りたかった!」と残念がっていた。マンハッタンにはそうした歴史を持つホテルが他にも存在している。ホテルを選ぶ際に、そうした歴史を探してみるのはいかがだろう。

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奥谷啓介氏

著者:奥谷 啓介

1960年東京都生まれ。ウエステインスタンフォード&プラザシンガポール、ハイアットリージェンシーサイパン等勤務の後、1994年よりニューヨークのプラザホテルに就職。2005年プラザホテルの閉館に伴い退職。現在はニューヨークにてホテルコンサルタントを、また2023年6月からは長年の夢であった小説家としてデビュー。ホテルマンの経験を活かし多方面で活躍中。

・奥谷 啓介オフィシャルサイト

<著者紹介>

・超一流の働き方

ビートルズ・ケネディ大統領・サウジの大富豪……全世界のVIPらに愛され、マネージャーとして超一流の世界で学んだ世界標準の「サービス」「心の持ち方」「自分の活かし方」「生き方」を公開!

超一流の働き方

・なぜ「お客様は神様です」では一流と呼ばれないのか

「アメリカのホテルで1万円儲かることが、日本のホテルでは3,780円しか儲からない」といわれるほど世界最低レベルの生産性。働けど働けど儲からないワーキングスタイルに苦しめられるのはもうやめよう。

なぜ「お客様は神様です」では一流と呼ばれないのか

・はえくんの冒険(原作:アントニオ猪木、著:ケニー奥谷、絵:八雲)

ブラジルの中央、マッドグロッソにある牧場に生まれた「はえくん」の物語。原作のアントニオ猪木氏が自身の体験をもとに長年あたためてきた企画が、奥谷氏の手により絵本になりました。大人が読んでも楽しめる愛と友情の物語です。

はえくんの冒険

・サービス発展途上国日本 - 「お客様は神様です」の勘違いが、日本を駄目にする

サービスを向上させるにはスタッフを幸せにすることが一番の近道。アメリカの超一流ホテルでの経験から綴る業界改革論。

サービス発展途上国日本 - 「お客様は神様です」の勘違いが、日本を駄目にする

・海外旅行が変わる ホテルの常識

「プラザ」元マネージャー直伝、一流ホテルで恥をかかない滞在術。この一冊があなたのアメリカ滞在を変える!レジャーはもちろん、ビジネスにも役立つ情報の集積。国際人の責任として、海外に行く前にその国の常識を学ぼう。

海外旅行が変わる ホテルの常識

・世界最高のホテル プラザでの10年間

アメリカのホテルはなぜこんなに不愉快なのか!?「日本人利用客」VS「アメリカ人従業員」。果てしないトラブルの非は、どちらにある?敏腕マネージャーがフロント・デスクの内側からみた「日米比較文化論」。

世界最高のホテル プラザでの10年間

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