私が見たアメリカのホテル

アメリカの一流ホテルで日本人マネージャーとして10年間勤務した著者が、日々の仕事の中でふと目にしたシーンから、日米の文化的な違い、考え方の背景にあるものなどをつづります。 著者紹介はこちら>>

第151回

渦中に成功を見出したホテル会社

ホテルイメージ

現在、マリオットインターナショナルが最も力を入れて開発にあたっているブランドが“エディション”。そのタイムズスクエアにある物件が先月、廃業を決定。オープンしたばかりの廃業はニューヨーカーにショックを与えた。また、今月は、ニューヨークの有名老舗ホテルであったオムニバークシャーが廃業を決めた。その他、多くのマイナーホテルも矢継ぎ早に廃業へと追い込まれている。1929年の世界大恐慌では、全米の8割にあたるホテルが倒産に追いやられた。今回も、その規模に近づきつつある。

だが、歴史を見てみると、世界大恐慌を利用して大成功をとげたホテルもあった。シェラトンホテルズはその代表格。ハーバード大学の同級生とその兄の3人は、大恐慌後に急回復するビジネスはホテル業であると分析。銀行管理化下に置かれたボストンのホテルを暴落値で買収したところからスタートした。彼らの分析は、1.オフィスビルやレンタルアパートは長期契約でテナントが入っているため、ホテルほど瀕死状態に陥っていない。2.景気が戻ったあと、契約済テナント料を上げることはできないが、ホテルは2倍にも3倍にも料金をあげることが可能。3.景気回復後、ビジネスマンは会社を立て直すため、出張回数が増える。―こうした彼らの読みはみごとにあたり、1960年には、世界最大のホテル保有資産会社になっている。

また、ウエスティンホテルズは世界大恐慌で破産していくホテルを救済するために設立された企業。1.会計、人事、購買、予約、広告にかかる経費は複数のホテルでシェアすることが可能。2.互いのホテルを宣伝し合うことで、利用者数を伸ばすことが可能。―これらの利点を利用することで、瀕死の状態に陥っているホテルを救えるはずと、5人のホテルマンが集まった。やはり彼らの見込みは的中し、その年に傘下に入った18軒のホテルはすべて生き残ることに成功。その後も発展を遂げ、1960から1980年代にかけて、世界最高級ホテルチェーンの名を欲しいままにした。

アイデア、行動力、柔軟性に富んだアメリカ気質は、現状を見据えている。「この状態では、なにをしてもうまく行くはずがない」と思われがちなときでも、奇抜な企画を実行し、そのうちのいくつかが大成功を収めて発展していく。それは歴史を見ればわかる。コロナ渦も、ワクチン開発により終息のときは必ずやってくる。そのときこそ、突出したビジネスモデルで大成功を収めるチャンスとばかりに、水面下で確実に人々は動いている。

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私が見たアメリカのホテル バックナンバー
奥谷啓介氏

著者:奥谷 啓介

1960年東京都生まれ。ウエステインスタンフォード&プラザシンガポール、ハイアットリージェンシーサイパン等勤務の後、1994年よりニューヨークのプラザホテルに就職。2005年プラザホテルの閉館に伴い退職。現在はニューヨークにてホテルコンサルタントを、また2023年6月からは長年の夢であった小説家としてデビュー。ホテルマンの経験を活かし多方面で活躍中。

・奥谷 啓介オフィシャルサイト

<著者紹介>

・超一流の働き方

ビートルズ・ケネディ大統領・サウジの大富豪……全世界のVIPらに愛され、マネージャーとして超一流の世界で学んだ世界標準の「サービス」「心の持ち方」「自分の活かし方」「生き方」を公開!

超一流の働き方

・なぜ「お客様は神様です」では一流と呼ばれないのか

「アメリカのホテルで1万円儲かることが、日本のホテルでは3,780円しか儲からない」といわれるほど世界最低レベルの生産性。働けど働けど儲からないワーキングスタイルに苦しめられるのはもうやめよう。

なぜ「お客様は神様です」では一流と呼ばれないのか

・はえくんの冒険(原作:アントニオ猪木、著:ケニー奥谷、絵:八雲)

ブラジルの中央、マッドグロッソにある牧場に生まれた「はえくん」の物語。原作のアントニオ猪木氏が自身の体験をもとに長年あたためてきた企画が、奥谷氏の手により絵本になりました。大人が読んでも楽しめる愛と友情の物語です。

はえくんの冒険

・サービス発展途上国日本 - 「お客様は神様です」の勘違いが、日本を駄目にする

サービスを向上させるにはスタッフを幸せにすることが一番の近道。アメリカの超一流ホテルでの経験から綴る業界改革論。

サービス発展途上国日本 - 「お客様は神様です」の勘違いが、日本を駄目にする

・海外旅行が変わる ホテルの常識

「プラザ」元マネージャー直伝、一流ホテルで恥をかかない滞在術。この一冊があなたのアメリカ滞在を変える!レジャーはもちろん、ビジネスにも役立つ情報の集積。国際人の責任として、海外に行く前にその国の常識を学ぼう。

海外旅行が変わる ホテルの常識

・世界最高のホテル プラザでの10年間

アメリカのホテルはなぜこんなに不愉快なのか!?「日本人利用客」VS「アメリカ人従業員」。果てしないトラブルの非は、どちらにある?敏腕マネージャーがフロント・デスクの内側からみた「日米比較文化論」。

世界最高のホテル プラザでの10年間

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