私が見たアメリカのホテル

アメリカの一流ホテルで日本人マネージャーとして10年間勤務した著者が、日々の仕事の中でふと目にしたシーンから、日米の文化的な違い、考え方の背景にあるものなどをつづります。 著者紹介はこちら>>

第124回

旅する人に必要不可欠なもの

ホテルイメージ

「私のスーツケースが無い!ベルマンはどこにもって行ってしまったの?」と、ゲストは声を荒げた。ベルマンが部屋に取りに来た以上、紛失はホテルの責任。必至になって、探したが、どこにも見つからない。時を同じくして、団体客のアウトがあった。40分前、バスの前には団体客のスーツケースが並べられていた。
「あの団体のスーツケースに混ざってしまったのかもしれない」
「バスはニューアーク空港に着いた頃だ。ゲストはもうJFK空港にむけて出発しないと飛行機に乗り遅れる」
ホテルのベルキャプテンはバスのドライバーに連絡を入れた。
「オレンジ色のスーツケースが取り残されていました。名前も電話番号も書かれていないから、連絡のしようがないです」
「それに間違いない!彼女のスーツケースはオレンジ色だから」
「すぐにJFK空港にそのスーツケースを運んで欲しい。マンハッタン経由では間に合わないから、ベルトパークウエイを通ってJFK空港に行き、そこで彼女に渡す手配をお願いします」

ホテルが最も気をつけていることの一つに、荷物のミスデリバリーがある。間違って違う部屋に運んでしまうと、容易には見つけられない。部屋ならまだしも、間違ったバスに乗せてしまい、空港まで行ってしまうなどということも起こりうる。こうした悲劇を防ぐため、ベルマンは荷物を持って、なるべくゲストと一緒に歩いたり、また、あとから部屋に届ける際には、“○○室に○○個、荷物を運んだ”という記録をつけたりしている。しかし、それでも悲劇は起こる。

ロビーに困り果てた様子のゲストがいた。
「空港には、私のスーツケースは残されていなかったんです。代わりにこれが。。。」
「では、これはあなたのスーツケースではないんですね?」
「色と型が一緒です。たぶん、このスーツケースの持ち主が私のスーツケースを間違ってもっていったんだと思います」
「それは大変だ!」
幸運なことに、そのスーツケースには名前と電話番号が書かれたタグがついていた。電話をすると、「よかった!間違って持って来てしまったことに、今、気が付いたんです。でも、連絡のしようがなくて困っていました」

旅する人が怠ってはならないことは、スーツケースに電話番号を書いたネームタグをつけること。空港で荷物を預けるとき、必ず名前と電話番号をつけさせる航空会社もあれば、なしで済ませてしまう航空会社もある。どちらかというと、日本の航空会社は後者が多い。安全な環境がつくりあげた“油断”だろう。だが海外に行く際には、スーツケースのネームタグは必要不可欠。それを忘れないで欲しい。

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奥谷啓介氏

著者:奥谷 啓介

1960年東京都生まれ。ウエステインスタンフォード&プラザシンガポール、ハイアットリージェンシーサイパン等勤務の後、1994年よりニューヨークのプラザホテルに就職。2005年プラザホテルの閉館に伴い退職。現在はニューヨークにてホテルコンサルタントを、また2023年6月からは長年の夢であった小説家としてデビュー。ホテルマンの経験を活かし多方面で活躍中。

・奥谷 啓介オフィシャルサイト

<著者紹介>

・超一流の働き方

ビートルズ・ケネディ大統領・サウジの大富豪……全世界のVIPらに愛され、マネージャーとして超一流の世界で学んだ世界標準の「サービス」「心の持ち方」「自分の活かし方」「生き方」を公開!

超一流の働き方

・なぜ「お客様は神様です」では一流と呼ばれないのか

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なぜ「お客様は神様です」では一流と呼ばれないのか

・はえくんの冒険(原作:アントニオ猪木、著:ケニー奥谷、絵:八雲)

ブラジルの中央、マッドグロッソにある牧場に生まれた「はえくん」の物語。原作のアントニオ猪木氏が自身の体験をもとに長年あたためてきた企画が、奥谷氏の手により絵本になりました。大人が読んでも楽しめる愛と友情の物語です。

はえくんの冒険

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サービスを向上させるにはスタッフを幸せにすることが一番の近道。アメリカの超一流ホテルでの経験から綴る業界改革論。

サービス発展途上国日本 - 「お客様は神様です」の勘違いが、日本を駄目にする

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「プラザ」元マネージャー直伝、一流ホテルで恥をかかない滞在術。この一冊があなたのアメリカ滞在を変える!レジャーはもちろん、ビジネスにも役立つ情報の集積。国際人の責任として、海外に行く前にその国の常識を学ぼう。

海外旅行が変わる ホテルの常識

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世界最高のホテル プラザでの10年間

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