私が見たアメリカのホテル

アメリカの一流ホテルで日本人マネージャーとして10年間勤務した著者が、日々の仕事の中でふと目にしたシーンから、日米の文化的な違い、考え方の背景にあるものなどをつづります。 著者紹介はこちら>>

第68回

チップの額

ホテルイメージ

The Ritz-Carlton Marina Del Rey

Gratuity(グラチュイティー)とはチップの同類語。レストランのCheck (チェック=勘定書)にGratuity の欄があり、そこに金額が書かれていたら要注意。その金額はチップに相当するものだからだ。その場合、特別多くチップを払いたいときでないかぎり、チップは、相場額(15~22%)から、そのグラチュイティー額を差し引いた金額とすればよいだろう。この手のチェックは高級レストランでときどき見かける。そこに来るゲストは気前のいい人が多いから、こうしたチェックを用意しておくと、チップを多く得ることができるのだ。

チップはウエイター&ウエイトレスの収入の大部分を占めている。彼らが受ける給与はわずかな額に過ぎない。レストランによっては無支給のところもある。だから、彼らはチップを確保するのにやっきになっている。チップが支払われないとき、あるいは相場額を下回るときなど、去って行こうとするゲストを追いかけることさえある。

これはホテルのベルマン&ドアマンにも当てはまる。彼らの主な収入原はチップだから、やはり“荷物1個につきいくら”という相場が決められている。ホテルの格式や都市によって異なるので、利用する側は困るが、ドアマン&ベルマンに言わせると、「それは常識だろう」となる。相場は、多くの場合、荷物預かり場(ストーレージ)に行くと分かる。ニューヨークの1~2流ホテルであれば、ストレージ代は荷物1個につき3~4ドル程度で掲示されている。この額を払えば、ベルマンは笑顔で動いてくれる。大小にかかわらず個数によって決まるので、家族でスーツケースを2つと手さげ袋を2つ運んでもらえば、12~16ドルを払うことになる。

さらに、ベルマンとドアマンは部署が別で、それぞれがチップを受け取るポジションにいる。ゲストが到着したとき、ドアマンは車から降された荷物をベルマンが運ぶまでの管理を行う。それほど労力を費やさないので、チップの相場はベルマンの半額程度になっている。その分、タクシーのドアをあけたときにゲストから受け取るチップで儲けを補う。

こう見てくると、アメリカのホテルに入るとき、チップは軽視できない額になる。だが、それでも日本のホテルと比べれば、部屋代にかかるサービスチャージがない分、少なくてすむ場合がほとんどだ。たとえば、日本で3万円のホテルに3泊すれば、9千円に相当するチップを払うことになる。ニューヨークのホテルに、4個の荷物を持って泊まったとしても、チェックインとアウトの際にかかる額はせいぜい32ドル。枕チップとして毎日、2ドルを払ったとしても、合計で38ドルにしかならない。そう考えれば、チップへの反感も多少緩和されるのではないだろうか。

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奥谷啓介氏

著者:奥谷 啓介

1960年東京都生まれ。ウエステインスタンフォード&プラザシンガポール、ハイアットリージェンシーサイパン等勤務の後、1994年よりニューヨークのプラザホテルに就職。2005年プラザホテルの閉館に伴い退職。現在はニューヨークにてホテルコンサルタントを、また2023年6月からは長年の夢であった小説家としてデビュー。ホテルマンの経験を活かし多方面で活躍中。

・奥谷 啓介オフィシャルサイト

<著者紹介>

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