私が見たアメリカのホテル

アメリカの一流ホテルで日本人マネージャーとして10年間勤務した著者が、日々の仕事の中でふと目にしたシーンから、日米の文化的な違い、考え方の背景にあるものなどをつづります。 著者紹介はこちら>>

第177回

コロナ禍後のホテルの雇用状況

ホテルイメージ

現在、アメリカでは、感染者はたくさんいるものの、最近のコロナの性質から、行動制限を一切無くした。それにより働く場所はたくさんでてきたものの、今度は働き手が大幅に不足している状態が続いている。ウエイター&ウエイトレスがいなくて、経営できないと嘆くレストランオーナーもいるほどだ。人手不足はあらゆる物価を底上げし、インフレを引き起こす。ホテルやレストランで働くチップドワーカー(チップを受け取るスタッフ)は物価上昇にあわせ、手取りを増やそうとチップの額を上げることに懸命になっている。

近頃は、面倒な計算をしなくていいように、チェックに、“チップが〇〇%のときは〇〇ドル”という数字が書かれているところが多い。以前は15%から始まっていたのが、今は18%から。店によっては20%から始まるところもある。これにより、大衆食堂でも人気のある店ならば、ウエイター&ウエイトレスが時給として得る額は50ドルを超える。時給50ドルは日給にして400ドル。月給にすれば、8000ドル。年収にすれば10万ドルに迫る。

こうなってくると、面白くないのはベルマンやドアマン。レストランと違って、彼らにはゲストにチップの額を示唆する仕組みがない。かと言って、自分からもっとチップを払ってくれとは言えないから、受け取るチップの額はコロナ禍前と変わらない。ユニオン(労働組合)が入り込んでいれば、「ベースアップ」を要求するが、そうでなければ、マネジメント(経営者側)の公正さに期待するしかない。マネジメントがこの状況を無視すれば、次第にベルマンやドアマンは辞めていき、人材不足が起こる。そのときになり、高い人件費を提示して、人材を確保しだすが、その結果、慣れないスタッフによりサービスは低下し、彼らの高いベースがルームレートに加算される。利用する側に、悪化したサービスに高い値段が押し付けられる。

こうした世情が一般的だが、1泊最低3000ドル以上するような超高級ホテルだけは違う世界を保っている。ゲストが払うチップはコロナ禍前から、ドアマンとベルマンを満足させるだけの額だったから、ウエイター&ウエイトレスの手取りが高くなったからと言って、不満をためることはない。一方、部屋数が少ない分、景気がいい時は、大型ホテルには適わなかった。忙しさも収入も景気に左右されないホテル。方や、景気のいい時は多忙多収入だが、景気が悪くなると不満をためたくなるホテル。今は、超高級ホテルで働くベルマンとドアマンに余裕の笑顔が見られる。

2022.8.24公開

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奥谷啓介氏

著者:奥谷 啓介

1960年東京都生まれ。ウエステインスタンフォード&プラザシンガポール、ハイアットリージェンシーサイパン等勤務の後、1994年よりニューヨークのプラザホテルに就職。2005年プラザホテルの閉館に伴い退職。現在はニューヨークにてホテルコンサルタントを、また2023年6月からは長年の夢であった小説家としてデビュー。ホテルマンの経験を活かし多方面で活躍中。

・奥谷 啓介オフィシャルサイト

<著者紹介>

・超一流の働き方

ビートルズ・ケネディ大統領・サウジの大富豪……全世界のVIPらに愛され、マネージャーとして超一流の世界で学んだ世界標準の「サービス」「心の持ち方」「自分の活かし方」「生き方」を公開!

超一流の働き方

・なぜ「お客様は神様です」では一流と呼ばれないのか

「アメリカのホテルで1万円儲かることが、日本のホテルでは3,780円しか儲からない」といわれるほど世界最低レベルの生産性。働けど働けど儲からないワーキングスタイルに苦しめられるのはもうやめよう。

なぜ「お客様は神様です」では一流と呼ばれないのか

・はえくんの冒険(原作:アントニオ猪木、著:ケニー奥谷、絵:八雲)

ブラジルの中央、マッドグロッソにある牧場に生まれた「はえくん」の物語。原作のアントニオ猪木氏が自身の体験をもとに長年あたためてきた企画が、奥谷氏の手により絵本になりました。大人が読んでも楽しめる愛と友情の物語です。

はえくんの冒険

・サービス発展途上国日本 - 「お客様は神様です」の勘違いが、日本を駄目にする

サービスを向上させるにはスタッフを幸せにすることが一番の近道。アメリカの超一流ホテルでの経験から綴る業界改革論。

サービス発展途上国日本 - 「お客様は神様です」の勘違いが、日本を駄目にする

・海外旅行が変わる ホテルの常識

「プラザ」元マネージャー直伝、一流ホテルで恥をかかない滞在術。この一冊があなたのアメリカ滞在を変える!レジャーはもちろん、ビジネスにも役立つ情報の集積。国際人の責任として、海外に行く前にその国の常識を学ぼう。

海外旅行が変わる ホテルの常識

・世界最高のホテル プラザでの10年間

アメリカのホテルはなぜこんなに不愉快なのか!?「日本人利用客」VS「アメリカ人従業員」。果てしないトラブルの非は、どちらにある?敏腕マネージャーがフロント・デスクの内側からみた「日米比較文化論」。

世界最高のホテル プラザでの10年間

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