私が見たアメリカのホテル

アメリカの一流ホテルで日本人マネージャーとして10年間勤務した著者が、日々の仕事の中でふと目にしたシーンから、日米の文化的な違い、考え方の背景にあるものなどをつづります。 著者紹介はこちら>>

第90回

ホテルのイメージを創るゲスト

ホテルイメージ

The Adolphus Hotel

ホテルほどイメージを大切にしなければならないビジネスはない。私はそう思っている。ホテルのイメージを形創るものは、豪華なロビー、客室、レストランなどのハードはもちろんのこと、スタッフの姿勢が大切。また、それらと同じくらい大切なものがもうひとつある。ゲストが醸し出す雰囲気だ。
 一流ホテルのラウンジやレストランにいると、周囲に座っている人々の姿が優雅な雰囲気の一部となっていることがわかる。このことを知っているホテルは、ドアマンに指示を出す。「みすぼらしい身なりの人が来たら、睨みつけて入りづらいプレッシャーを与えること」。プラザホテルで働いていたとき、「ドアマンから“身分不相応”と見られているようで中に入れなかった」と、若い人からよく言われた。
 殊に、ニューヨークのホテルは、イギリス人ビジネスマンが最も多く泊まる場所。彼らは身だしなみにとても気を使う。プラザホテルの中には、“007のジェームズボンド”のように、ハイセンスな色合いのスーツとネクタイを着こなしているビジネスマンが多くいた。“We are ladies and gentlemen serving ladies and gentlemen”(私たちは、紳士淑女にサービスを行う、紳士淑女である)という名言を持つリッツカールトンでも、フォーマルな服装をしたゲストたちが優雅な雰囲気を創り出だしている。レストランの前には、ドレスコードの説明が書かれた札が置かれ、場にそぐわない服装をしているゲストを入れない。
 予約を取るときに、“お子様連れはお断り”を説明するレストランもある。騒がれて、雰囲気を乱されると困るからだ。一流レストランやホテルを利用することが多い家庭は、子供にもネクタイとジャケットを着せ、小さな頃からマナーを教える。そうした人たちにとっては、「子供が騒ぐのはしかたがない」ではなく、「しつけをしていないのならば、子供をつれてきてはいけない」というのがマナーなのだ。

 ホテルで働いていると、富裕層の中にも差が見える。成り上がった人々の多くは、マナーには気を使わない。一方、代々引継がれてきた富裕層の人々はマナーを教えこまれている。がやがやした状態を許しているホテルやレストランは、後者のゲストから避けられることになる。
 ゲストを選ぶために、“身分不相応を感じさせるプレッシャー”を創りだすか否かは、総支配人の考えによるところが大きい。どんなに伝統と格式を誇るホテルでも、総支配人にその意識が備わっていなければ、大衆化していく。これが、欧米のホテルにおいて、大衆ホテルの総支配人は大衆ホテルを歴任し、一流ホテルの総支配人は一流ホテルを歴任するという流れを作りだす基になっている。

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私が見たアメリカのホテル バックナンバー
奥谷啓介氏

著者:奥谷 啓介

1960年東京都生まれ。ウエステインスタンフォード&プラザシンガポール、ハイアットリージェンシーサイパン等勤務の後、1994年よりニューヨークのプラザホテルに就職。2005年プラザホテルの閉館に伴い退職。現在はニューヨークにてホテルコンサルタントを、また2023年6月からは長年の夢であった小説家としてデビュー。ホテルマンの経験を活かし多方面で活躍中。

・奥谷 啓介オフィシャルサイト

<著者紹介>

・超一流の働き方

ビートルズ・ケネディ大統領・サウジの大富豪……全世界のVIPらに愛され、マネージャーとして超一流の世界で学んだ世界標準の「サービス」「心の持ち方」「自分の活かし方」「生き方」を公開!

超一流の働き方

・なぜ「お客様は神様です」では一流と呼ばれないのか

「アメリカのホテルで1万円儲かることが、日本のホテルでは3,780円しか儲からない」といわれるほど世界最低レベルの生産性。働けど働けど儲からないワーキングスタイルに苦しめられるのはもうやめよう。

なぜ「お客様は神様です」では一流と呼ばれないのか

・はえくんの冒険(原作:アントニオ猪木、著:ケニー奥谷、絵:八雲)

ブラジルの中央、マッドグロッソにある牧場に生まれた「はえくん」の物語。原作のアントニオ猪木氏が自身の体験をもとに長年あたためてきた企画が、奥谷氏の手により絵本になりました。大人が読んでも楽しめる愛と友情の物語です。

はえくんの冒険

・サービス発展途上国日本 - 「お客様は神様です」の勘違いが、日本を駄目にする

サービスを向上させるにはスタッフを幸せにすることが一番の近道。アメリカの超一流ホテルでの経験から綴る業界改革論。

サービス発展途上国日本 - 「お客様は神様です」の勘違いが、日本を駄目にする

・海外旅行が変わる ホテルの常識

「プラザ」元マネージャー直伝、一流ホテルで恥をかかない滞在術。この一冊があなたのアメリカ滞在を変える!レジャーはもちろん、ビジネスにも役立つ情報の集積。国際人の責任として、海外に行く前にその国の常識を学ぼう。

海外旅行が変わる ホテルの常識

・世界最高のホテル プラザでの10年間

アメリカのホテルはなぜこんなに不愉快なのか!?「日本人利用客」VS「アメリカ人従業員」。果てしないトラブルの非は、どちらにある?敏腕マネージャーがフロント・デスクの内側からみた「日米比較文化論」。

世界最高のホテル プラザでの10年間

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