私が見たアメリカのホテル

アメリカの一流ホテルで日本人マネージャーとして10年間勤務した著者が、日々の仕事の中でふと目にしたシーンから、日米の文化的な違い、考え方の背景にあるものなどをつづります。 著者紹介はこちら>>

第134回

ホテルとエアラインが統合した時代

ホテルイメージ

1945年の春、フランクリンルーズベルト大統領とパンアメリカン航空のCEOファン・トリップは、中南米における米国資本の拡大について話し合いを行った。ファン・トリップは、パンアメリカン航空が乗り入れている都市にホテルを運営することを提案。大統領の承認の下、政府の援助を受け、翌年、インターコンチネンタルホテルが誕生した。

遅れて、1967年に、パンアメリカン航空のライバルだったトランスワールド航空がヒルトンインターナショナルを買収する。1970年には、ユナイテッド航空とウエスティンホテルズが同じ持株会社の傘下で連結した。ヨーロッパでも、1972年にエールフランス航空がル・メリデイアンホテルを設立し、1970年にルフトハンザ航空が、ヨーロッパ最古のホテルチェーン、ケンピンスキーホテルズを買収した。約50年前、ホテルとエアラインが組んで互いのビジネスを伸ばそうと盛んに動いた時代があった。

現在、日本を例外として、ホテルとエアラインが資本提携のもとにビジネス展開しているところはほぼ消えた。まだホテルの数が少なかった時代には、“ユナイテッド航空利用者には、ウエスティンホテルが特別料金で泊まれます”というようなPRが集客ツールとなった。だが、ホテル数が増えるにつれ、1社の飛行機会社とつながっていることが、逆にホテルの足を引っ張る事態を引き起こしだした。ユナイテッド航空を利用している人に特典を与えるホテルから、デルタ航空を利用している人は遠ざかるようになる。ホテルはたくさんあるのだから、なにも特定の人だけに特典を与えるホテルに泊まる必要もない。また、株主たちからの不満があがることもある。航空会社の業績がよいときに、ホテルの業績が悪ければ、株主たちは「ホテルを切れ」と言い出す。そして、株式会社である以上、株主の意見を無視することはできない。

かって、ユナイテッド航空、ウエスティンホテルズ、ハーツレンタカー、ヒルトンインターナショナルを傘下においた持株会社UAL INCが、総合旅行業を目指し、アリージェスコーポレーションを設立したことがあった。だが、周囲の期待とは裏腹に、この構想は1年ともたなかった。「ユナイテッド航空の業績はいいのに、他の分野が足を引っ張っている。ユナイテッド航空だけにすればもっと儲かるのだから、別れろ」という株主たちからの声が、崩壊の主な理由だった。ながい目で見たら、あのとき崩壊しなかったら、今頃、巨大企業となっていたかもしれないと思う人も少なくない。

だが、間違いなしに、時代はビジネスの効率化を計って動いていく。ホテルチェーンはエコノミーから最高級ランクまでのホテルを世界中の至るところに保有することで、より多くのゲストを囲い込める。エアラインは同業者同士でアライアンスを形成することで、自社が乗り入れていない場所に行くゲストも囲い込める。今は、これが最も効率的なマーケテイング方法となった。50年後は、どのような体系に変わっているのだろうか。

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奥谷啓介氏

著者:奥谷 啓介

1960年東京都生まれ。ウエステインスタンフォード&プラザシンガポール、ハイアットリージェンシーサイパン等勤務の後、1994年よりニューヨークのプラザホテルに就職。2005年プラザホテルの閉館に伴い退職。現在はニューヨークにてホテルコンサルタントを、また2023年6月からは長年の夢であった小説家としてデビュー。ホテルマンの経験を活かし多方面で活躍中。

・奥谷 啓介オフィシャルサイト

<著者紹介>

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