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私が見たアメリカのホテル

アメリカの一流ホテルで日本人マネージャーとして10年間勤務した著者が、日々の仕事の中でふと目にしたシーンから、日米の文化的な違い、考え方の背景にあるものなどをつづります。 著者紹介はこちら>>

第145回

ニューヨークのホテルに見るユダヤ人パワー

ホテルイメージ

マイケル・ブルームバーグが次期大統領選に出馬を表明した。彼は、2001年から2013年まで、ニューヨーク市長を3期行った人物。彼の功績があまりにも大きかったため、現市長の存在感が薄くなってしまっていると言われるほどの手腕の持ち主。

ブルームバーグはユダヤ人。彼が大統領になると、米国史上初めてのユダヤ人大統領の誕生となる。未だに「ユダヤ人は大統領になれない」という人がいるが、そうした時代は終わったように私は思う。

ドナルド・トランプがプラザホテルのオーナーだったとき、資金繰りに行き詰まり、プラザホテルをコンドミニアム(分譲マンション)にして売るという計画をたてたことがあった。ニューヨーク市民はそれに反対。また、トランプが考えた方法が許可されなかったこともあり、彼はコンドミニアム化を諦めたという経緯がある。

それから10年、イスラエルの大富豪がプラザホテルを相場の2倍の値段で購入し、コンドミニアム化を進めようとした。だが、労働組合が発起し、計画を阻止するため、プラザホテルの内部をランドマークに指定するという作戦をたてた。ランドマーク(文化財)になれば、そのまま保存しなければならなくなるので、コンドミニアムにはできない。そして、ランドマークの申請がされてしまえば、工事はできなくなり、彼の計画は潰れる。労働組合側が勝利を宣言する寸でのところで、市長のブルームバーグが仲裁に入った。

「お金を払ったオーナーの権利も認めてあげなければならない」が彼の主張だった。そして、ホテルの部屋を805室中250室残すこと。レストランを2軒残すこと。グランドボールルームを残すこと。の3点を挙げ、労働組合を説き伏せた。そのとき、ブルームバーグは「ユダヤ人の同朋を守るために動いた」と言われた。

ニューヨークの人口分布で、最も多い民族がユダヤ人。現在は12%だが、1960年代は、25%で、4人に1人がユダヤ人だった。彼らの多くはとても優秀な頭脳を持ち、ニューヨークの経済を支えると共に、自分らも富みを得て、富裕層化して行った。ブルームバーグもその1人。ソロモンブラザーズで働き、39歳のときに独立して現在の会社を立ち上げ、2019年現在、519億ドルもの資産を造りあげた。アメリカの長者番付で9位。実にトランプの17倍もの資産を持つに至っている。

また、ユダヤ人は、ニューヨークの大型ホテルにとって、大のお得意様になる。彼らには、成人式に相当する“バーミツバ”と言われる儀式がある。社会的責任を果たせる年になった青年が行うもので、ホテルの宴会場を貸し切ることが多い。結婚式では、“コーシャ”というユダヤ人特有の調理方法で料理を造って人々をもてなす。コーシャのライセンスを持ったシェフでないと調理ができないため、ホテルはキッチンを貸して、利益をあげる。共に莫大なお金をかけて行われるもので、宴会場を持つホテルにとっては、大きな収入源だ。人口が多いため、この2つのイベントが行われる回数がとても多くなる。

20年前、私がプラザホテルで働いてたとき、朝からフローリストの担当者が宴会場の階段の手すりに花を絡ませていることが頻繁にあった。「コーシャウェディングですか?」と尋ねると、ほぼ「そう」という答えだった。当時にして、花の装飾だけで10万ドル(1千万円)をかけるイベントだった。また、宴会マネージャーたちも「コーシャイベント」と言いながら、嬉しそうに働いていた。その理由は、通常の宴会よりも遥かに収益が高いことにあった。

ニューヨークを支えてきたユダヤ人。その代表とも言える人物が、同じニューヨーク出身の名物男と大統領選を争う。ニューヨーク中が沸く戦いとなることだろう。

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奥谷啓介氏

著者:奥谷 啓介

1960年東京都生まれ。ウエステインスタンフォード&プラザシンガポール、ハイアットリージェンシーサイパン等勤務の後、1994年よりニューヨークのプラザホテルに就職。2005年プラザホテルの閉館に伴い退職。現在はニューヨークにてホテルコンサルタントを、また2023年6月からは長年の夢であった小説家としてデビュー。ホテルマンの経験を活かし多方面で活躍中。

・奥谷 啓介オフィシャルサイト

<著者紹介>

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