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私が見たアメリカのホテル

アメリカの一流ホテルで日本人マネージャーとして10年間勤務した著者が、日々の仕事の中でふと目にしたシーンから、日米の文化的な違い、考え方の背景にあるものなどをつづります。 著者紹介はこちら>>

第123回

ニューヨークのホテルビジネスを支えるユダヤ人

ホテルイメージ

1950年代、ニューヨーク市の人口の約25%はユダヤ人だった。第二次世界大戦中、ナチスから逃れるため、多くがニューヨークに移住した。彼らが、“迫害されては財産を失う”という長い繰り返しの歴史から学んだものは「我々から絶対に没収できないものは知識。知識こそ生きていく上で最も大切な物なのだ」ということだった。それに従い、懸命に勉学をする彼らは、世界人口にしたら、わずか0.3%以下に過ぎないにもかかわらず、ノーベル賞をとる人数は20%を超える。こうした卓越した頭脳を持つ彼らがニューヨークで大きな富を手に入れるまで、それほど時間はかからなかった。

プラザホテルには、「コーシャスタイルの宴会」という依頼が頻繁に入る。“コーシャ”とは“オーソドックスユダヤ人”と呼ばれる敬虔なユダヤ人が守る調理法。砂漠の民であった時代に、彼らは自らを守るための教えを造りあげた。例えば、彼らは豚は食べない。豚は体中に菌をもっているので人体に危険を及ぼすことがあるからだ。食べるのは草食の反芻動物のみ。こうした決まりに沿って調理をするのが「コーシャ」。コーシャ料理は免許をもっているシェフにしか依頼できない。コーシャの宴会と聞けば、ホテルのスタッフは喜ぶ。特殊な手配ゆえ、額が高くなり、利益も多くなるからだ。因みにベーグルもコーシャ食品。17世紀にポーランドに暮らすユダヤ人によって造られた、水と小麦粉しか使わない健康食品。また、全米のスーパーマーケットで売られている食品の41%は、コーシャに従った食品を証明するためのコーシャマークがついている。

プラザホテルのグランドボールルームは2階にある。時々、ロビーからそこに行くまでの階段までもが花で飾られる。フラワー業社は早朝から準備にかかり、夜から始まる宴会に備える。こうしたフラワー装飾だけで10万~20万ドルを費やす結婚式が入る。多くはユダヤ人のコーシャ式結婚式。さらに、ユダヤ人は子供が13歳になると、“バーミツバ”と呼ばれる成人式を行う。その会場としてホテルが選ばれ、結婚式に負けないぐらい豪華な催しとなる。高級ホテルにとって、ユダヤ人のこの二つのイベントは最高の収入源だ。

ユダヤ人の多くは大きな富を持つ。そして、彼らが最も多く暮らす街がニューヨーク。そこに存在する高級ホテルが彼らから得る利益もまた、とてつもなく大きなものとなっている。

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奥谷啓介氏

著者:奥谷 啓介

1960年東京都生まれ。ウエステインスタンフォード&プラザシンガポール、ハイアットリージェンシーサイパン等勤務の後、1994年よりニューヨークのプラザホテルに就職。2005年プラザホテルの閉館に伴い退職。現在はニューヨークにてホテルコンサルタントを、また2023年6月からは長年の夢であった小説家としてデビュー。ホテルマンの経験を活かし多方面で活躍中。

・奥谷 啓介オフィシャルサイト

<著者紹介>

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なぜ「お客様は神様です」では一流と呼ばれないのか

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海外旅行が変わる ホテルの常識

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