私が見たアメリカのホテル

アメリカの一流ホテルで日本人マネージャーとして10年間勤務した著者が、日々の仕事の中でふと目にしたシーンから、日米の文化的な違い、考え方の背景にあるものなどをつづります。 著者紹介はこちら>>

第183回

ホテルのチェーンブランド化

ホテルイメージ

その昔、エンパイアステートビルがある場所に、ウオルドルフ=アストリアというホテルが立っていた。プラザホテルやダコタハウスの建築を行ったことで有名な当時の巨匠、ヘンリー・ハーデンバーグが建築したホテルである。

アメリカ初のマルチミリオンネアとなったジョン・ジェイコブ・アスターの曾孫、ジョン・ジェイコブ・アスター四世は無類のホテル好きで、マンハッタンに、ウオルドルフ=アストリア、セントレジス、ニッカボッカホテルを建てた。これからも豪華なホテルを建ててくれるだろうという期待を抱かれながら、欧州旅行からの帰り、タイタニック号とともに帰らぬ人となった。

彼の財産の多くを引き継いだ息子はホテルに興味がなく、1910年からポルステッド法(禁酒法)が始まると、レストランの売り上げが落ちたという理由で、ニッカボッカホテルをオフィスビルに改装し、ウオルドルフ=アストリアをエンパイアステートビルの開発業者に売却してしまった。その愚行を嘆いたウオルドルフ=アストリアの支配人がその名称を1ドルで買い、現在のパークアベニューと50ストリートの東南の角に移築したという経緯だった。

残されたセントレジスは、後日、シェラトンホテルズに買収され、シェラトンホテルズの最高級ブラントとなった。新生ウオルドルフ=アストリアも後日、ヒルトンホテルズに買収され、ヒルトンホテルズの最高級ブラントとなった。長きに渡り、シェラトンもヒルトンもそれらをチェーンブランド化するつもりはなかったが、インターネットの普及により、名声あるホテルのブランド化が大きな集客力につながると、それまで世界唯一だったホテルがチェーンブランドとして世界中で展開される時代を迎えた。

大富豪、ジョン・ジェイコブ・アスター四世が建てたこの2軒のホテルは、プラザホテルと並び、ニューヨークを代表する3大ホテル。伝統と格式を全面に打ち出す存在なため、どんなに素晴らしい造りを凝らしたところで、新しいホテルにそららが保有する伝統と格式を望むことはできない。この2軒の老舗ホテルに親しんできた人々の中には、他の場所にあるこのブランドホテルに、失望感をいだく人もいるだろう。“やはりオリジナルを超えることはできない”と。また、オリジナルを知らず、ブランド名だけを知っている人の多くは、新しくできたこのブランドホテルに期待を寄せることだろう。

まだチェーンブランド化されていない最後とも言えるプラザホテルの正式名はザ・プラザ。このザは世界に一つという意味をもつザ。いつかこのホテルがチェーンブランド化されることになったとき、多くの人はどういう気持ちを抱くだろうか・・・

2023.2.28公開

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奥谷啓介氏

著者:奥谷 啓介

1960年東京都生まれ。ウエステインスタンフォード&プラザシンガポール、ハイアットリージェンシーサイパン等勤務の後、1994年よりニューヨークのプラザホテルに就職。2005年プラザホテルの閉館に伴い退職。現在はニューヨークにてホテルコンサルタントを、また2023年6月からは長年の夢であった小説家としてデビュー。ホテルマンの経験を活かし多方面で活躍中。

・奥谷 啓介オフィシャルサイト

<著者紹介>

・超一流の働き方

ビートルズ・ケネディ大統領・サウジの大富豪……全世界のVIPらに愛され、マネージャーとして超一流の世界で学んだ世界標準の「サービス」「心の持ち方」「自分の活かし方」「生き方」を公開!

超一流の働き方

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なぜ「お客様は神様です」では一流と呼ばれないのか

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海外旅行が変わる ホテルの常識

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