私が見たアメリカのホテル

アメリカの一流ホテルで日本人マネージャーとして10年間勤務した著者が、日々の仕事の中でふと目にしたシーンから、日米の文化的な違い、考え方の背景にあるものなどをつづります。 著者紹介はこちら>>

第49回

伝説を伝えるアメリカのホテル

ホテルイメージ

The Fairmont San Francisco

アーサー・ヘイリーが、代表作「ホテル」を出版したのは1965年のこと。原稿を書いている間、ニューオリンズのフェアモントホテルで取材を続けた。小説の中には、当時働いていたスタッフもモデルになっているという話はよく知られている。

第18代アメリカ大統領グラントが大統領になる前、ワシントンDCのウイラードホテルのロビーで頻繁に政策を話しあっていた。それが基で、政治に影響を与える人々をロビーストと呼ぶようになったという。

「風と共に去りぬ」が出版されたのは1936年。スカーレットが階段から落ちるシーンが撮影された場所として、サンフランシスコのフェアモントが使われたと言われている。だが、実は、リッチモンドのジェファーソンホテルだったという話しもある。双方ともに、マーガレットミッチェルが原稿を書いている間に泊まっていたので、そこからヒントを得たという言い伝えに基づいている。

私が働いたプラザに伝えられる話しもたくさんある。ブロードウエイ・ミュージカルの父とよばれる、ジョージコーエンが毎晩、メインダイニングのオ―クルームに来て同じ席に座っていたことから、未だにその席の壁には、「コーエンの予約席」というサインが張られたままになっている。ジェフリーアーチャーの代表作「ケインとアベル」は、アベルがシベリアの収容所から脱走してホテル王になる話し。彼が働いた場所も、プラザの「オークルーム」だった。私が働いていた10年の間に、たくさんの映画撮影の話がきた。それをマーケティングの責任者が吟味して、ホテルのイメージにふさわしいと思うものだけを受け入れて行く。大規模な撮影は真夜中に行われるが、昼に行わなければならないときもある。そのときは、「○○映画の撮影です。映画の中でお会いしましょう。」という立札を置く。文句があがることはまずない。アメリカ人はこうした話しが大好きだからだ。

ホテルはそうした話しをマーケティングの手段として利用する。廊下にずらりと写真を並べて、歴史を説明しているホテルも多くみかける。ホテル雑誌も頻繁に話題にする。しかし、日本のホテルを見ていると、ひと目を引く話しを大々的にだすことを控える傾向があるように思える。宿泊者の滞在を楽しくするためにも、こうした話しを表にだしたほうがよいのではないかと私は思う。

昨年、アップルワールド社にスポンサーになっていただき、たくさんの国内ホテルと旅館を取材して、知られていない話しを集めた。今回、そのうちから20軒を選んで電子書籍にした。この情報が読者の旅を楽しいものにする上で役だてたら嬉しく思う。

「この話しを聞いたら必ず訪れたくなる国内ホテル&旅館20選」(著:ケニー奥谷)

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私が見たアメリカのホテル バックナンバー
奥谷啓介氏

著者:奥谷 啓介

1960年東京都生まれ。ウエステインスタンフォード&プラザシンガポール、ハイアットリージェンシーサイパン等勤務の後、1994年よりニューヨークのプラザホテルに就職。2005年プラザホテルの閉館に伴い退職。現在はニューヨークにてホテルコンサルタントを、また2023年6月からは長年の夢であった小説家としてデビュー。ホテルマンの経験を活かし多方面で活躍中。

・奥谷 啓介オフィシャルサイト

<著者紹介>

・超一流の働き方

ビートルズ・ケネディ大統領・サウジの大富豪……全世界のVIPらに愛され、マネージャーとして超一流の世界で学んだ世界標準の「サービス」「心の持ち方」「自分の活かし方」「生き方」を公開!

超一流の働き方

・なぜ「お客様は神様です」では一流と呼ばれないのか

「アメリカのホテルで1万円儲かることが、日本のホテルでは3,780円しか儲からない」といわれるほど世界最低レベルの生産性。働けど働けど儲からないワーキングスタイルに苦しめられるのはもうやめよう。

なぜ「お客様は神様です」では一流と呼ばれないのか

・はえくんの冒険(原作:アントニオ猪木、著:ケニー奥谷、絵:八雲)

ブラジルの中央、マッドグロッソにある牧場に生まれた「はえくん」の物語。原作のアントニオ猪木氏が自身の体験をもとに長年あたためてきた企画が、奥谷氏の手により絵本になりました。大人が読んでも楽しめる愛と友情の物語です。

はえくんの冒険

・サービス発展途上国日本 - 「お客様は神様です」の勘違いが、日本を駄目にする

サービスを向上させるにはスタッフを幸せにすることが一番の近道。アメリカの超一流ホテルでの経験から綴る業界改革論。

サービス発展途上国日本 - 「お客様は神様です」の勘違いが、日本を駄目にする

・海外旅行が変わる ホテルの常識

「プラザ」元マネージャー直伝、一流ホテルで恥をかかない滞在術。この一冊があなたのアメリカ滞在を変える!レジャーはもちろん、ビジネスにも役立つ情報の集積。国際人の責任として、海外に行く前にその国の常識を学ぼう。

海外旅行が変わる ホテルの常識

・世界最高のホテル プラザでの10年間

アメリカのホテルはなぜこんなに不愉快なのか!?「日本人利用客」VS「アメリカ人従業員」。果てしないトラブルの非は、どちらにある?敏腕マネージャーがフロント・デスクの内側からみた「日米比較文化論」。

世界最高のホテル プラザでの10年間

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