私が見たアメリカのホテル

アメリカの一流ホテルで日本人マネージャーとして10年間勤務した著者が、日々の仕事の中でふと目にしたシーンから、日米の文化的な違い、考え方の背景にあるものなどをつづります。 著者紹介はこちら>>

第174回

アメリカ近代ホテルの父・スタトラー

ホテルイメージ

マンハッタンから380キロメートル離れたところにイサカという町がある。そこはアイビーリーグの一つ、コーネル大学がある場所で知られる町。コーネル大学はすべての部門でノーベル賞を取った学者を輩出したことで知られるが、世界を代表するホテル学部があることでも知られている。校舎の中には、その学部を設立した人物の名を取ったスタトラーホテルがある。

1800年代後半に生きたエルスワース・ミルトン・スタトラーは庶民が利用する大型ホテルをチェーン化した先駆者だった。当時、旅をする人々が富裕層に偏っていたことから、大都市に建てられるホテルは高級ホテルが多かった。だが、彼は一般大衆が旅を楽しむ時代の流れが到来していることをいち早く読み取り、大型大衆ホテルの建設運営に力を入れた。

各部屋に電話を取り付け、ルームサービスのオーダーができるようにし、飲食の売り上げを伸ばす。等身大の鏡を取り付けたり、新聞を無料で配ったりすることで、ゲストの満足度を高める。また、電気のスイッチをドアを開けたところに取り付けることで、節電につなげた。最も儲かるホテルを研究した彼は、それまでのホテルのコンセプトを見直し体系化を行った。当時、アメリカに自動車時代の開幕をもたらしたフォードTモデルも彼の研究対象の一つだった。彼が着目したのは、富裕層の贅沢品でしかなかった自動車を、ベルトコンベヤーを利用することで、発売当時の950ドルから350ドルにまで落とし、庶民の手が届くものにした点。スタトラーホテルの代表格はマンハッタンにあるペンシルバニアホテル。船と鉄道が交通機関の中心だった時代、ニューヨーク最大の鉄道駅に隣接した巨大ホテルは大きな利益を生んだ。

“アメリカ近代ホテルの父”と呼ばれたスタトラーはホテル協会の要請を受け、コーネル大学にホテル学科を設立。1927年に他界した後は、彼の意思を継いだ人々がスタトラーホテルズを拡大し続けた。1954年、スタトラーを尊敬していたコンラッド・ヒルトンが11軒で構成されていたスタトラーホテルズを、当時の不動産取引の世界最高額となる110ミリオンダラーで買収。ヒルトンホテルズの傘下に置き、スタトラーヒルトンという名称で運営した。

現在、スタトラーの流れを継ぐスタトラーホテルはコーネル大学の中に存在するのみ。アメリカのホテルマンなら、一度は訪れてみたいホテルの一つになっている。

2022.5.20公開

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奥谷啓介氏

著者:奥谷 啓介

1960年東京都生まれ。ウエステインスタンフォード&プラザシンガポール、ハイアットリージェンシーサイパン等勤務の後、1994年よりニューヨークのプラザホテルに就職。2005年プラザホテルの閉館に伴い退職。現在はニューヨークにてホテルコンサルタントを、また2023年6月からは長年の夢であった小説家としてデビュー。ホテルマンの経験を活かし多方面で活躍中。

・奥谷 啓介オフィシャルサイト

<著者紹介>

・超一流の働き方

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超一流の働き方

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「プラザ」元マネージャー直伝、一流ホテルで恥をかかない滞在術。この一冊があなたのアメリカ滞在を変える!レジャーはもちろん、ビジネスにも役立つ情報の集積。国際人の責任として、海外に行く前にその国の常識を学ぼう。

海外旅行が変わる ホテルの常識

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世界最高のホテル プラザでの10年間

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