私が見たアメリカのホテル

アメリカの一流ホテルで日本人マネージャーとして10年間勤務した著者が、日々の仕事の中でふと目にしたシーンから、日米の文化的な違い、考え方の背景にあるものなどをつづります。 著者紹介はこちら>>

第164回

日米による技術進化の差

ホテルイメージ

2000年頃のことだったと思う。日本に行ったら、人々が携帯電話でテレビを見ていた。それをアメリカに戻って同僚たちに話したら、「日本の技術の進化は凄い!」と、誰もが驚いていた。だが、その後、スマートフォンが主流となりだし、今では、大多数の人がスマートフォンを利用している。進んでいた日本の技術が海外から来た技術に抜かれた例と言える。

キャッシュレス化も似たような様相を見せている。昔から、アメリカ人はクレジットカードを使うため、あまり現金を持ち歩かなかった。だが、キャッシュレス化は進化せず、その間、日本ではスマートフォンをタッチさせる決済システムができあがった。ニューヨークの地下鉄に乗るとき、スマートフォンのタッチで決済ができるようになったのは、ここ2年のことだ。この点で、日本よりも大きく遅れている。だが、きっと、これからは、日本を追い抜く進化を見せ、逆に日本がそれを導入する動きになるのではないかと思う。

キャッシュレスの進化を遅らせたものに、アメリカ経済を根底から支えるチップ制度の存在がある。ホテルを利用するとき、ドアマン、ベルマン、ハウスキーパーに払うチップとして、キャッシュを持っていなければ、恥をかくことになるし、先方の怒りを買うことになる。ガソリンスタンドでガスを入れてくれた係の人にも、キャッシュがなければ面倒なことになる。至るとこでキャッシュによるチップが必要とされることが、キャッシュレス進化を加速させなかった理由として存在する。

また、コロナ禍で「非接触技術」が日本では開発され、ホテルで導入されているが、これは今の時点で、アメリカでは進みそうもないことが見えている。理由は、その必要性を感じる人々が少ないこと。これはアメリカでウオッシュレットの導入が進まないことと似ている。アメリカ文化は日本ほど「清潔」を求めない。食事の前に手を洗う人はほとんどおらず、公共の場にある手すりに触ったままの手でパンを掴む。また、身体の触れ合いも必要とされる。人々は、握手、ハグ、キスの3つの行為で情を表現する。

昨年は、アメリカで、こうした習慣は悪しきものとして扱われた。だが、ワクチンの普及により、コロナが”風邪と同等ランク”になりつつある今、習慣は戻りつつある。「非接触」も一時的にできた過去の言葉となり、日本で進化した技術は、アメリカではさほど利用されることはないだろう。アメリカに行くときは、公共手段には頼れないので、今後も自分でコロナから身を守る手段を続ける必要がある。

2021.7.21公開

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奥谷啓介氏

著者:奥谷 啓介

1960年東京都生まれ。ウエステインスタンフォード&プラザシンガポール、ハイアットリージェンシーサイパン等勤務の後、1994年よりニューヨークのプラザホテルに就職。2005年プラザホテルの閉館に伴い退職。現在はニューヨークにてホテルコンサルタントを、また2023年6月からは長年の夢であった小説家としてデビュー。ホテルマンの経験を活かし多方面で活躍中。

・奥谷 啓介オフィシャルサイト

<著者紹介>

・超一流の働き方

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超一流の働き方

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