私が見たアメリカのホテル

アメリカの一流ホテルで日本人マネージャーとして10年間勤務した著者が、日々の仕事の中でふと目にしたシーンから、日米の文化的な違い、考え方の背景にあるものなどをつづります。 著者紹介はこちら>>

第159回

アメリカのホテルの社員教育

ホテルイメージ

「ノーと言ってはいけない」これはサービス業の現場で頻繁に言われること。1800年代後半、ヨーロッパで活躍した伝説のホテルマン、セザール・リッツは「とにかくイエスと言え。解決策はあとで考えろ」と言ったほど、「ノー」を避けるようにスタッフに言い聞かせていた。

高級ホテルにとって、最も防ぎたいことは顧客を失うこと。高級ホテルに泊まる顧客人口は多くなく、顧客を獲得するために大きな労力を使っている。損失は由々しきダメージだ。それを防ぐため、リッツカールトンでは、全てのスタッフに2千ドルまで、各自の判断で使ってよいというエンパワーメント(決裁権)を与えていることはよく知られている。「リッツカールトンの顧客の平均年齢は43歳。あと30年はホテルを利用し、その間にホテルで使う額は20万ドル。これを守るために、エンパワーメントを与えてある」と、当時の取締役がインタビューに応えている。

私が働いたプラザホテルでも、「ノー」の場合には「代わりにこれはいかがでしょう?」というオプションを出すことで、その場を切り抜けろと教えていた。そのオプションが優れたものであれば、ゲストを失望させることなく終えることができる。正にサービスマンとしての能力が発揮される瞬間でもある。だが、いつも無事に難局を切り抜けられるとは限らない。顧客を失っていることもある。だから、会社としては、スタッフの能力を伸ばさなければならない。優秀な人材は、ホテルのイメージをアップさせて利益を確保する。高級ホテルにとっては要となるものだ。

そうした目的で、プラザホテルでは、「セミナー」を行っていた。毎年、外から講師を招いて指導を行う。1日6時間の3日間。その間は、仕事をせずに参加しなければならない。「仕事が忙しくて参加できない」などという言い訳は許されない。仕事が忙しいのは分かるし、それに従事することは大切だが、スタッフが能力を伸ばすことも同じように大切。だから、この3日間だけは、仕事を後回しにして、セミナーを受けなければならないという方針を貫いていた。

だが、そこまでして、優秀なスタッフを必要としないホテルもある。ホテルは独自調査によって、それを理解している。最高のサービスを受けられるホテルもあれば、最低のサービスしかだせないホテルもある。アメリカ社会の特徴である、“ピンからキリまで”はホテルの在り方にも如実に表れている。

2021.2.24公開

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奥谷啓介氏

著者:奥谷 啓介

1960年東京都生まれ。ウエステインスタンフォード&プラザシンガポール、ハイアットリージェンシーサイパン等勤務の後、1994年よりニューヨークのプラザホテルに就職。2005年プラザホテルの閉館に伴い退職。現在はニューヨークにてホテルコンサルタントを、また2023年6月からは長年の夢であった小説家としてデビュー。ホテルマンの経験を活かし多方面で活躍中。

・奥谷 啓介オフィシャルサイト

<著者紹介>

・超一流の働き方

ビートルズ・ケネディ大統領・サウジの大富豪……全世界のVIPらに愛され、マネージャーとして超一流の世界で学んだ世界標準の「サービス」「心の持ち方」「自分の活かし方」「生き方」を公開!

超一流の働き方

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「アメリカのホテルで1万円儲かることが、日本のホテルでは3,780円しか儲からない」といわれるほど世界最低レベルの生産性。働けど働けど儲からないワーキングスタイルに苦しめられるのはもうやめよう。

なぜ「お客様は神様です」では一流と呼ばれないのか

・はえくんの冒険(原作:アントニオ猪木、著:ケニー奥谷、絵:八雲)

ブラジルの中央、マッドグロッソにある牧場に生まれた「はえくん」の物語。原作のアントニオ猪木氏が自身の体験をもとに長年あたためてきた企画が、奥谷氏の手により絵本になりました。大人が読んでも楽しめる愛と友情の物語です。

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「プラザ」元マネージャー直伝、一流ホテルで恥をかかない滞在術。この一冊があなたのアメリカ滞在を変える!レジャーはもちろん、ビジネスにも役立つ情報の集積。国際人の責任として、海外に行く前にその国の常識を学ぼう。

海外旅行が変わる ホテルの常識

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世界最高のホテル プラザでの10年間

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